- 下話
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乾杯したシャンパンを少し飲んだ後、私は軽めのカクテルを飲んでいた。リビングにあたる部屋の片隅にバーカウンターがあって、色々なお酒が揃っていたけど、あまり強くないし飲みすぎてしんごの前で醜態は晒せない。
テーブルにはしんごが拝借してきてくれた料理が並んでいた…ほとんどお酒のつまみとスイーツだったけど。
私は夜景が見える向きのソファーに腰を降ろし、テーブルの上のピクルスをつまんだ。
「ゆりはさあ……彼氏とかいるの?」
早くも最初のビールを空けたしんごは次の栓を抜いていた。スーツを脱いでカウンターの椅子にかけ、クイクイっと片手でネクタイを緩めながらもう一方の手でグラスを持って私の隣に座った。
「あ…えーっと………」
思わずしんごから視線をずらす。
「いるんだ?」
…どうしよう。でもあのモデルからバレる事もあるかもしれないし、嘘は嫌だし…。
「あの…私結婚していて…子供も………」
我ながらものすごい歯切れの悪いしゃべり方だ。
「子供!?本当に!!?」
しんごは腰を浮かす勢いで、想像以上にびっくりしたみたい。
「ごめんなさいっ。隠すつもりは無かったんだけど、言うタイミングが…」
しんごはビアグラスを傾けながら窓の方を見つめた。
「そっかぁ…じゃあなんか逆にごめんね。こんなとこまで連れてきちゃって。」
「謝らないでください。黙ってたのは私なんだし」
「そうだよなー、だから大人な感じがしたんだよな。俺さ、下心が全く無いと言えば嘘になるけど、無理矢理どうこうするつもりは無いし。誰かさんみたいに(笑)」
先日の更衣室の事を思い出して、少し胸がチクっとした。
「今日…今満足してくれたら、帰りたくなったらいつでも言って。送るから。」
この人、紳士だな。なんて優しいんだろう。
「ありがとうございます。」
嬉しさが溢れそうになりながら、私は笑顔でしんごを見つめた。- 0
13/11/26 01:29:13