- 下話
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周囲がざわめき出す。
白いシャツ、黒いネクタイ、グレー地に柄の入ったスーツに身を固め、丁寧にセットされた、少し茶色がかった髪の男性がこちらに来た。
彼だった。
彼はこちらを見て、いつもの笑顔で手を振ってくれた。
ざわつく人々に、警備員がよりいっそう警備を強化する。
ガラス越しなので声は聞こえない。
どんな放送内容なのかもわからない。
でもなにやら撮影は続いた。
「ゆりー!」
友達が私の肩をギュッと握る。
すぐさま撮影は終わり、彼はエレベーターに乗った。
もう行っちゃったんだ‥
周囲の人々は一斉に捌ける。
「ゆりー!少しだったけど会えて良かったね!かっこよかったね!」
「うん、本当にありがとう!」
「詳しい話しはまた今度ゆっくりね!私終電ギリギリだから。」
「駅まで送るよ!走ろ!」
「ゆりはタクシーでしょ、せっかくなんだからみんなみたいに思い出に写撮っときなよ。」
番組のロゴマークのライトが、テレビ局のビルを綺麗に照らしていた。
「うん、そうする。」
私がそう言うと、友達は駅に向かって早速と走り出した。
明日も早いのに、無理をして私に付き合ってくれたんだ。
「本当にありがとう」
友達の走って行く背中を見ながらそうつぶやいた。- 0
14/09/20 01:41:16