- なんでも
- 黒田官兵衛
- 20/08/03 07:40:21
PCR検査より精度が低い「発達障害チェックリスト」は問題だ
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・新型コロナ感染PCR検査は万能ではない
・「子どもの発達障害」の簡易チェックリストの精度
・精神科医によって異なる診断結果
・占いレベルの診断が、子どもの人生を左右する
・親が何も知らずに子どもに処方される向精神薬
・定義の拡張により増える顧客
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2020年07月22日
■新型コロナウイルス感染のPCR検査は万能ではない
日本各地で新型コロナウイルスの新規感染者が増えている。とくに7月16日〜18日にかけての3日連続で東京都の感染者数は200人を超え、震え上がった国民の声に押される形で、政府は「Go To Travelキャンペーン」の対象から東京都を除外。息も絶え絶えな観光業を支援するための施策は、事実上撤回に追い込まれた。
東京都がPCR検査数を大幅に増やしている以上、感染者数が増えるのは当たり前の話だが、そもそもこの検査自体に問題があることは、すでに多くの医療関係者から指摘されている。
新型コロナウイルスに感染しているかどうかを確かめるPCR検査は万能ではなく、陽性の人を誤って陰性と判断する見落とし(偽陰性)や、陰性の人を誤って陽性と判断する混入(偽陽性)が一定確率生じてしまう。にもかかわらず検査が万能だと思い込み、検査結果を妄信することは、かえって人々を危険にさらす。検査はその性質や精度を考慮し、対象や条件を絞ってこそ有益になるのだ。
これと似た状況が、子どもの精神医療の世界でもながらく蔓延していることを読者はご存知だろうか。つまり、早期に障害を発見するための簡易検査が、その検査精度や実施対象が適切でないことによって、大きな弊害を引き起こしている。
■「子どもの発達障害」の簡易チェックリストの精度
PCR検査の問題点は、まず第一に、陽性なのに陰性と判定された人がすっかり油断して遊び歩き、逆に感染を広げてしまうこと。そして第二に、陰性なのに陽性と判定された人が、社会から隔離されてしまうこと。前者は検査の目的からすれば本末転倒であり、後者は深刻な人権侵害である。
ここでは特に、精神医療のずさんな検査の結果として起きている人権侵害の状況を紹介していきたい。この問題について長期にわたる調査報道に携わり、『発達障害のウソ』(扶桑社新書)を上梓したばかりの米田倫康氏に聞いた。
「いま私が注目しているのは、子どもの発達障害です。この世界の専門家たちは、幼児期に障害を早期発見して、すみやかに受診と治療、支援につなげることを重視していますが、肝心の検査が非常にいい加減なんです。実際、各自治体が実施している乳幼児健診や、就学時健診における発達障害の発見の状況を総務省がとりまとめて報告書(2017年)にしているんですが、数字がメチャクチャ。市町村ごとに発達障害が疑われる子どもの発見割合を出したところ、1歳6か月児健診では0.2%から48.0%まで、3歳児健診では0.5%から36.7%までとかなりの幅がみられたそうです」
これほど数字のばらつきがある検査は、手法なり対象なりが間違っていることは明らかだろう。そもそも、発達障害が疑われる子どもの発見割合が3割や4割にのぼる市町村が本当にあるのなら、それこそ戦慄すべき大問題だ。
「発達障害の早期発見のための検査では、簡易チェックリストが使われます。例えば厚労省は、生後1歳6か月〜3歳までの児童を対象にした23項目のチェックリスト『M-CHAT』を用意して、普及を図っています。このリストの項目を見てもらえば一目瞭然ですが、これは身体疾患を早期発見するための検査とはまったく異なり、物理的に存在するものを指標としておらず、非常にあいまいです」
「検査はあくまで検査であり、その後医師が正しく診断してくれるから多少の誤判定は問題ないと思われるかもしれません。しかし診断自体も医師の知識や経験、視点などの主観に左右されるものですから、そもそも『正しい診断』が存在しない世界です。発達障害は先天的な脳機能障害だと言われていますが、それはあくまで仮説に過ぎません。現実的には、脳を検査して脳機能障害を特定した上で診断を下すわけではありません。問診が診断の中心となる以上、医師によって結果にばらつきが生じてしまうのです」
ということは、検査結果と医師の診断との一致がすなわち正解という単純な話ではない。本当の意味で検査精度を正しく評価することも不可能となる。偽陰性や偽陽性の数字を曲がりなりにも論じることができるPCR検査の方がまだマシである。
続く
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