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AI失業、日本で本当に危ないのは「若者」ではない 日本型雇用が生み出す“ホワイトカラー淘汰”のリアル
星野 卓也
(第一ライフ資産運用経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト)
2026.06.13 07:00
※エントリーレベルの仕事とは、専門的な実務経験をほとんど、または全く必要としない「キャリアの初期段階向け」の職種を指します。
【要約】
・AIの普及により海外では若年大卒者の雇用環境悪化がみられる一方、日本では新卒採用の売り手市場が続いている。背景には、日本の新卒採用が単なる「エントリーレベル職の補充」ではなく、将来の専門人材・幹部候補を育成するポテンシャル採用として機能していることがある。
・ジョブ型雇用が中心の欧米では、AI が入口となる職務を代替すると若年雇用に影響が及びやすい。(略)
・日本で AI による雇用調整の影響を受けやすいのは、新卒者よりも社内で余剰感のある中高年層や、事務職の担い手となっている女性・非正規雇用層とみられる。「エントリーレベルの仕事=新卒の若者」という欧米型の構図が日本では成り立ちにくいことが、AI の雇用影響の表れ方を異なるものにすると予測する。
続く
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No.1 主 ヒオウギガイ
26/06/30 09:01:53
■AI→若者失業が見えてこない日本
(略)昨今しばしば話題になるのがAIの労働市場への影響だ。AIへの曝露度が高いホワイトカラー職、中でもエントリーレベルの仕事はAIによる代替が進みやすいとされ、実際に海外ではその影響が顕在化する動きがみられる。
米ニューヨーク連銀の集計では、22~27歳の大卒者の失業率は2026年3月時点で5.6%と、全労働者(16~65歳)の4.2%を1.4ポイント上回った。従来、大卒新卒者の失業率は全体平均を下回るのが常だったが、2023年以降にこれは逆転しており、差は開く傾向にある。
特に、顕著な影響がみられているのはエンジニア、コンピュータサイエンスやファイナンスなどだ。AIが業務の生産性を爆発的に引き上げたことで、実務部隊としての新人を多数抱える必要性が薄れたということなのだろう。
スウェーデンの実証研究では、生成AIへの曝露度が高い職業では22~25歳の労働者の採用が2025年初頭までに5.5%減少した一方、50歳以上の雇用はむしろ1.3%増えたことが示されている(Lodefalk et al., 2026)。AIが若年層の「入口」を狭めている、という構図は欧米で確かに進行中である。(略)
続く
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No.2 主 ヒオウギガイ
26/06/30 09:02:35
■なぜ日本では「若者」の雇用環境が悪化しないのか
(略)
なぜ日本では、AIがエントリーレベル職を侵食しても、新卒採用の縮小に直結しないのか。鍵は労働市場の構造にある。
ジョブ型労働市場が基本の欧米では、企業は職務(ジョブ)に紐づいて人を採用し、雇用者にはその職務を遂行するための即戦力であることが求められる。AIがエントリーレベルの職務を代替すれば、無スキルの若者・新卒者の主たる受け皿が縮み、若年雇用へのしわ寄せが直接及びやすい。
一方の日本では、依然としてメンバーシップ型の雇用慣行が根強く残っている。企業は特定の職務ではなく組織の一員を採用する。新卒採用は「エントリーレベル業務の担い手を確保する手段」としての位置づけに加えて、将来的に専門人材、幹部候補へ育成する仕組みとなっている。AIで定型業務が省力化されても、将来の伸び代を見込んで新卒者を確保し、育成しておくインセンティブは容易には消えない。(略)
続く
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No.3 主 ヒオウギガイ
26/06/30 09:03:14
加えて、年功的な賃金カーブの名残から、生産性に対して賃金が高くなりがちなのは新卒者ではなく実務担当のミドルシニア層である。
メンバーシップ型雇用が生む課題として「社内失業」「窓際族」「働かないおじさん」など、出世ルートを外れて社内に活躍の場を失った中高年層の存在がある。
賃金上昇圧力が強まる下で、足元で増えているのが希望退職制度などの利用である。東京商工リサーチによれば、2025年度の上場企業の希望退職募集人数は2万781人と前年度の約2.5倍にのぼり、その多くは黒字企業だった。対象の多くは中高年層に偏っている。
ジョブ型雇用の欧米では人員整理が「ジョブ」を基準に決まる。年齢ではなく職務で待遇が決まるため、日本のようにエントリーレベルに近い仕事を中高年層が高い賃金で行っている、といったギャップはそもそも生じていない。その結果、エントリーレベルの仕事の淘汰は若年雇用の悪化に直結するのである。
一方、日本ではメンバーシップ雇用に根差した中高年層の余剰感が依然として強い状態にあるとみられる。人員整理の対象となりやすいのは新卒採用より中高年層、という現実は初任給の上昇と希望退職の増加という状況からも明らかである。(略)
続く
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No.4 主 ヒオウギガイ
26/06/30 09:03:53
■「エントリーレベルの事務」の担い手は若者ではない
もう一つ重要な点がある。日本の労働市場の特異性として、女性の非正規雇用の存在がある。特にAIに対する曝露度の高いとされる事務職では、中高年の女性、女性・非正規雇用者が大きな担い手となっている。
今でこそ夫婦ともに正社員の世帯は一般化しているが、現在の50代以降程度の世帯は結婚・出産とともに女性が専業主婦になり、子どもが大きくなってから簡単な仕事に就く、というキャリアパスも珍しくはなかった。子育て後の中高年女性は現在も事務職雇用の中心となっている。
AIによる事務職の淘汰が雇用調整として真っ先に及びやすいのはこの層であると考えられる。
続く
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No.5 主 ヒオウギガイ
26/06/30 09:04:33
■日本ではAI失業は異なる形で表面化する
日本企業にとって新卒採用は「エントリーレベル職の担い手」としての性格だけでなく、将来の育成を通じた専門人材、幹部になるためのポテンシャル採用としての性格がある。企業はAIによるエントリーレベルの職の淘汰を見据え、新卒者を単に減らすのではなく、新卒者により高度な仕事を求める方向に舵を切っている。
ジョブ型雇用とメンバーシップ雇用のもとで「新卒者」の意味合いは異なり、海外で進行する「AIが若者の入口を奪う」現象は、日本では同じ姿では現れにくいのではないか。
「AIによるエントリーレベルの仕事の淘汰」の影響を日本で真っ先に受けるのは社内で需給がだぶついている中高年層やエントリーレベルの事務業務の担い手となっている女性・非正規雇用層、だと予測している。「エントリーレベルの仕事=新卒の若者」という欧米型の単純な対応関係が成り立たないことが、異なるAI影響を生むことになるだろう。
参考文献
Lodefalk, M., Löthman, L., Koch, M., & Engberg, E. (2026). Same Storm, Different Boats: Generative AI and the Age Gradient in Hiring. Örebro University Working Paper 2/2026.
(※情報提供、記事執筆:第一ライフ資産運用経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 星野 卓也)
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/withbloomberg/2726356
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