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- マル
- 21/09/12 04:24:17
6月某日、静まり返ったリビング風の小部屋の一角に白い棺が置かれ、セレモニーが行われた。開式とともにスタッフが祭壇に飾られているバラを一輪ずつ取り、棺の上に彩を添えていく。その作業が40分間黙々と行われた。
そこは葬儀式場にもかかわらず、家族や参列者は一人もいない。故人は「新型コロナウイルス感染症」で亡くなったのだった。
「家族に代わって何ができるか考え続けた。100%にすることはできないが、ゼロにはならない」
ゆっくりとそう語るのは葬儀貸し式場「想送庵カノン」を運営する三村麻子さん。こちらの式場では、東京都の借り上げ施設として約2カ月にわたり、新型コロナ感染症による遺体の受け入れを行ってきた。
東京都の担当部署の深慮と、東京都葬祭業協同組合からの発案により、コロナ死者のための「お別れ代行式」はこうして実施された。
「何もされない」状態で返されるコロナ死者
病院で亡くなった場合、身だしなみを整えた状態で葬祭業者にバトンタッチされるのだが、新型コロナで亡くなった方の遺体については、基本的には何もされない。厚生労働省では7月に入って「最期の場面にふさわしい容貌となるように、安納な範囲で配慮を」と整容についてガイドラインを出してはいるが、いまだに服の着せ替えもなく、髪の毛が整えられるわけでもなく、医療器具も付けたままの状態になってしまうケースさえある。
感染者の遺体は、全体をすっぽり覆う非透過性納体袋に収容・密閉、表面を消毒した後に棺に納められる。このような処置がされていれば特別な感染防止策は不要とされているものの、新型コロナウイルスはまだ解明されていない点が多く、慎重に対応せざるを得ないという理由で、棺の隙間をすべて目張りすることを受け入れ条件とする火葬場も少なくない。中には棺の周りをさらに幾重にもラッピングすることを受け入れ条件としている火葬場もある。そのためか、棺に納める際に保冷処置が必要であるにもかかわらず、ドライアイスを当てて防腐処置が施されていることも少ない。
家族は最期に立ち会うことはおろか、面会することも許されずに故人は火葬場へ向かうことになる。亡くなった事実を受け入れる手段は、死亡診断書等の書面と、手元に還される遺骨しかない。
消毒だけで数十万円請求する業者も
3月から4月にかけて、コロナ死者の受け入れについて現場は大変混乱していた。「ノウハウがない」「リスクがありすぎる」といった理由で「受け入れできない」と断る葬儀社や、故人の消毒だけで数十万円の請求をする業者もあったと聞く。
そんな中、コロナ死者数が多かった東京都では、ある施策をとっていた。
新型コロナウイルス感染症で亡くなった方、またその疑いのある方を受け入れる専用の施設を設けたのだ。
その白羽の矢が立ったのが「想送庵カノン」だった。
「世界中でも類をみない、手厚さでお見送りしたいと思った」と語る三村さん。こちらの施設は小型化している現代の葬儀事情に配慮し、故人と共に過ごす安置という場を大切にする葬儀施設として2019年にオープンした。セレモニーをするにしてもしないにしても、故人と家族がゆっくり時間と空間を共有して欲しいという思いからだ。
しかしコロナ関連死者もしくは疑いのある死者を受け入れる間は、一般の受け入れができないため、その空間を最大限生かすことはできない。そんな中でも「社会のお役に立てるように作った場所なので、東京都の打診は受け入れて当然だと思った」と三村さんは振り返る。
風評被害が想定される中であっても、事前に近隣住民には説明し、故人の受け入れのみ可、家族の面会は不可という形で合意を得たうえでのスタートとなった。
1へ続く
https://news.yahoo.co.jp/byline/kikkawamitsuko/20200902-00196203
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