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カイノミ
アフガニスタンに駐留する米軍の撤退作業が正式に始まった。ジョー・バイデン米大統領は今年9月11日までにアメリカの「最長の戦争」を終わらせると表明している。テロ情勢に詳しい和田大樹氏は「米軍のアフガン撤退で組織が息を吹き返せば、中東やアフリカで中国人を狙うテロが増える恐れがある」という。
■ウイグル独立運動を「国際テロ」の一環としてきた中国
バイデン政権になってから、米メディアではウイグル問題を扱う回数が劇的に増えている。このウイグル問題を巡っては、アメリカとイギリス、カナダが中国に制裁を発動して政治的な亀裂が深まるだけでなく、アパレル大手H&Mやスポーツ用品大手ナイキが新疆ウイグル産の綿花を使用しないなどと発表。一方で中国国内では、これら企業への不買運動を求める声がネット上で拡散した。
まさにウイグル問題が経済安全保障のテーマとなった形だが、ウイグル問題を巡る最近の動向をテロ研究の視点からみると、また別の変化が見えてくる。
古代中国で「西域」と呼ばれていた新疆ウイグル自治区は、イスラム教を信仰するウイグル人約980万人を擁し、19世紀から20世紀にかけて何度か短期間の独立経験をもつ地域である。中華人民共和国の成立後も、分離独立や高度な自治を求める運動は続き、1980年代の末からはデモや漢民族との衝突が頻発するようになった。
中国共産党政権はこれらの運動を厳しく弾圧してきたが、とくに2001年9月11日の米同時多発テロ事件以降、ウイグル問題と国際テロ問題を関連づける動きを活発化させた。事件直後、中国はアメリカへ哀悼の意を伝えるとともに、アフガニスタンでの対テロ掃討作戦に全面的に賛同。一方で、新疆ウイグル自治区の分離独立を目指すイスラム過激派「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)」と、アルカイダなどの国際テロ組織の関連を強調するようになった。
■対テロ戦争に追われるアメリカも黙認
当時、アメリカのブッシュ政権は国際テロ組織アルカイダとそれをかくまうタリバン政権の打倒に全神経を集中させていたこともあり、イスラム過激派の動きに非常に敏感で、専門家も含めアルカイダとの関連が少しでも疑われれば即国際テロの視点で考える風潮があった。中国は外交レベルで対テロ戦争に賛同しつつ、ETIMの国際テロ化を強調することで、国内でのウイグル系過激勢力への締め付けを正当化しようとしたわけだ。
ブッシュ政権はウイグルの人権問題を知りながらも、テロ抑止の観点から2004年にETIMを国際テロ組織認定リストに指定。中国当局による弾圧を黙認する結果となった。結果的にはそれが、今日のウイグル市民への人権侵害や弾圧にもつながっている。
ETIMは1997年に、ハッサン・マフスームとアブドゥカディル・ヤプケンという人物によって設立された。2003年に指導者マフスームがパキスタンで殺害されるまでの間、アルカイダやタリバンなどと協力関係にあったとされる(この点については、専門家の間でも意見は分かれる)。
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No.2 主 カイノミ
21/06/02 10:05:43
■パキスタンではすでに「対中テロ」が何度も発生
反一帯一路運動の多くは市民による抗議デモだが、武装勢力によるテロ行為として現れるケースもある。例えば、2019年5月にパキスタン南西部のグワダルで起きた、パキスタンのバルチスタン解放軍(BLA)による高級ホテル襲撃事件(筆者も以前本誌で取り上げた)はその典型的な例だ。
つい最近(2021年4月21日)も、パキスタン西部バルチスタン州の州都クエッタにある高級ホテル「セレナホテル」で爆発物を用いたテロ事件が発生。5人が死亡、10人あまりが負傷した。このホテルには在パキスタンの中国大使が宿泊していたが、爆発当時はホテルにいなかったため難を逃れた。
事件後、イスラム過激派組織「パキスタン・タリバン運動(TTP)」が犯行声明を出した。今回の声明には中国権益を狙ったと明言する文言はなかったが、TTPが2012年にペシャワルで中国人観光客を殺害した際には、“中国政府がわれわれの兄弟である新疆ウイグルのムスリムを殺害していることへの報復だ”という声明を出したことがある。
■北アフリカのアルカイダ系組織の声明
TTPの戦闘員たちはアフガニスタンでも活動し、アルカイダとも協力関係にあるというが、主な活動範囲はパキスタン北西部のワジリスタン地域だ。しかし、今回のテロ現場はそこから200km以上離れたクエッタであり、専門家の間ではTTPが活動範囲を広げ、インド洋に面するグアダルなどで中国権益への攻撃を続けてきたBLAとも関係を密にしているという声が上がっている。
ETIMらウイグル独立派をあまり支援してこなかったとされるアルカイダも、中国への攻撃を掲げたことがある。例えば、2009年7月に新疆ウイグル自治区の首都ウルムチで起きたウイグル騒乱の後、AQIM(マグレブ諸国のアルカイダ)は報復として北アフリカにいる中国人・中国企業を狙うとする声明を発表(*5)。2014年10月には、アルカイダのオンライン英語雑誌”Resurgence”に「東トルキスタンの10の事実」と題するトピックが掲載され(*6)、北京へのジハードが強調された。
■ISILもジハードを宣言
一方、イラク・レバントのイスラム国(ISIL)でも、2014年7月に当時の指導者アブ・バクル・アル・バクダディが、中国へのジハードを宣言(*7)。さらに今回のコロナ禍について、ISILは機関誌「アルナバ」上で中国の初動対応を非難している。
アルカイダやISIL、それに関連するテロ組織ネットワークの動きは、米軍などによる大規模な掃討作戦の結果、以前ほどの脅威ではなくなっている。とはいえ、彼らは今でも活動を継続しており、今年9月11日までに行われる米軍の完全撤退によってアフガニスタンの治安が悪化すれば、中長期的にはアルカイダをはじめとするテロ組織が再び息を吹き返しかねない。
国際的なテロ組織ネットワークが、中国国内でウイグル人の独立を支援するようなテロを起こすことは、各組織の現状やこれまでの経緯をみても考えにくい。だが中国が「一帯一路」路線を続ける限り、今パキスタンで散発的に起きているような現地の中国権益を狙ったテロが、中東やアフリカの各国で表面化する可能性はあると言わざるを得ない。
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