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- 島左近
- 21/04/06 11:55:29
福岡市にある団地の一室で、ミナミ=仮名=は母親から18年間軟禁された。昼間も黒いカーテンで閉ざされ、外の様子を見ることができない。食事は1日1食もあればよかった。
【画像】虐待事件に関わった親の背景
「部屋から出るな」。母は居間でテレビゲームをしながら監視した。食事や睡眠、何をするにも許可が必要だった。正座を崩せば木刀やハンガーで殴られる。「いっそ殺してくれんかな」。同居する父や姉、兄は素知らぬふりをした。
きっかけは、保育園で隣の席の子の給食を食べたこと。母は「盗むなんて異常や」と怒鳴り、部屋に閉じ込めるようになった。
学校には通ったことがない。教員が訪ねてくるたびに、押し入れに隠された。「実家に預けた」。玄関先で対応する、母の上ずった声が聞こえた。「ここにいるよ、助けて」。暗闇からの心の叫びは届かなかった。
勉強と称し、ノートの升目に同じ文字や言葉を書かされた。「あ」「能無し人間」…。1文字で1冊を終えたこともある。頭がおかしくなりそうだった。
「おまえは化け物」。丼飯に食器用洗剤や揚げ物に使った油をかけられた。
罰金10万円。18年の代償「それだけ?」
「死んでおわびします」。18歳の秋、母がまだ寝ていた早朝、書き置きを残して家を出た。髪は伸び放題、パーカには血が付いていた。歩道を歩いていると、女性が「何ではだしなの」と声を掛けてくれた。
「お母さんに殴られる。帰りたくない」と泣きつき、警察に保護された。身長122センチ、体重22キロ。小学校低学年の体形だった。初めて口にした温かい食事に「ボロボロと涙が出た」。
母は傷害容疑で逮捕され、罰金10万円の略式命令で釈放された。
「あれだけのことをしてそれだけ? 死刑にしてよ」。悔しさで震えた。
病院や施設を転々とし、20歳で1人暮らしを始める。児童相談所での特別な教育で、小中学校の卒業証書をもらった。
虐待した理由を聞くため、実家に向かったのは23歳の春。母と初めて対等に話した。
「何であんなことしたの」
「しつけよ。あの後うちらは周りから散々言われた。勝手にしね」
バチン。母の頬をぶち、泣き崩れた。
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