• No.1 毛利勝永

    20/12/29 12:09:03

    さらに追い打ちをかけたのは、介護事業者から見放され、同居していた長男の奥様が、様々な心労から精神を病み、入院治療をしなければならなくなったことです。長男は、このことに怒り心頭、担当ケアマネも長男が納得できる代替え案を提案できず、結局、Aさんを老人ホームへ入居させるという結論に至ったのです。

    Aさんのケアプラン
    老人ホームへ入居の申し込みをしに来た長男は、Aさんのことを「いくら恨んでも恨み足りない。親子の縁を切りたい」と訴え、自分たちがこの1年間、どれだけ苦しんだかという説明を蕩々と繰り返したといいます。

    そして、ホームとAさんの身元引受人契約を締結した際、「Aさんの取り扱いは、ホームに一切任せる。死んだ場合のみ連絡すること。遺体を引き取ります」という約束をして帰っていきました。

    後日、Aさんの入居時調査を担当した介護職員の報告によると、Aさんは、男尊女卑の思想が強く、女性は自分の奴隷であるというような趣旨の発言があったといいます。そして、リクエストに応えることができない女性に罰を与えることは当然である、とも言っていたというのです。介護業界では、女性を敵に回したらお終いです。なぜなら、介護の現場は圧倒的に女性の力で支えられているからです。

    おそらく、Aさんの場合、暴力もそうですが、この「暴言」こそが多くの女性から見放された最大の原因だと思います。何しろ、それまで元気だった長男の奥様が精神病院に入院しなければならなくなったほどなのですから。

    この老人ホームでは、介護職員らによるAさんのケアプラン作成を目的としたカンファレンスにおいて、以下のことが協議・決定されました。

    元エリートでプライドが高く、頭もしっかりしている。しかし、身体には麻痺があるため、自由に動けないというジレンマが、従来から持っている気質をより増大させ、自分の思うようにならないことが起きると、暴言や暴行となって外部へ責任転嫁されている(「お前が悪いからだ」という思考)。

    よって、しばらくの間は、先ず、介護対応は男性職員が担当することとし、介護支援において「何をすると、どのような反応になるのか」をきめ細かく記録に残し、様子を観察していくこととなりました。

    なお、夜勤帯については、女性しか配置できない日があるため、例外とするということになりました。

    「煮ようと焼こうと好きにしてくれ!」
    しかし、トラブルはすぐに発生しました。夜勤時、排泄を介助した女性介護職員に対し、暴力事件を起こしたのです。

    何でも、トイレ内でのズボンの下ろし方が気に食わないという理由で、自由が利く方の手で女性介護職員の顔を殴りつけ、足蹴りにしたというのです。不意を突かれた女性職員は、殴られた拍子に手すりに顔をぶつけ、口腔内から出血してしまいました。傷害事件です。

    翌日、この話を聞いた一部の女性介護職員からは「冗談じゃない!」と怒りの声が上がり、施設長に対し「即刻退去させるべきだ」「そんな人の介護はできない」と言って、Aさんの介護を拒否する意思表示なされます。

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