朱鳥
トランプvsバイデン、どちらが世界に戦争をもたらす可能性があるのか
2020年06月12日(金)16時30分
ニューズウィーク日本語版
2016年トランプ大統領が当選直後には「第三次世界大戦が起きる」という全く根も葉もない与太話がメディアを賑わせていたことを思い出す。それらの中にはトランプ大統領は狂人であり、精神疾患を患っているという話まで飛び出るトンデモ説も存在していた。
実際のトランプ政権の外交・安全保障政策は、トランプ大統領の派手な言動とは裏腹に極めて抑制的かつ非介入的なものであった。筆者は毎年のように共和党保守派の年次総会であるCPAC(Conservative Political Action Conference)に出席しているが、そのイベント内の講演やシンポジウムで語られる内容もトランプ政権誕生以来従来よりも内向的なものになったように感じる。
◆トランプ政権はほとんど戦争に繋がる行動をしていない
トランプ政権は、対外介入に極めて抑制的であることと同時に、紛争拡大を防ぐために最低限の武力行使を行うことは躊躇わない傾向がある。そして、ジョージ・W・ブッシュから続く中東・アフガンにおける泥沼の戦争から現実に脱却する政治姿勢を強く持っている点も特徴だ。
中東ではISISの掃討をほぼ完了し、シリア駐留米軍の兵力は撤退させつつある。アフガンではタリバンとの和平合意を推進しており、今年の一般教書演説のハイライトにはアフガンからの帰還兵をゲストに招いた。イランには強硬な態度を示しつつも、今年1月の革命防衛隊のソレイマニ氏暗殺については米・イラン間で抑制の効いた攻防が演出された。トランプ政権の中東からの米軍撤退姿勢は同地域への軍事介入を主導してきたネオコン勢力との鋭い対立を生み出しており、同タカ派のマクマスター安全保障担当補佐官は更迭されている。
東アジアではトランプ大統領は北朝鮮の金正恩と会談。米朝会談以後、金正恩は核実験とICBM実験を停止しており、北朝鮮の挑発的な軍事行動は抑制されている。そして、CVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)を強く主張するボルトンはやはり安全保障担当補佐官の立場から追放されている。
中国との覇権争いはエスカレーションを継続しているものの、米国における対中最強硬派は連邦議会議員らであって実はホワイトハウスではない。むしろ、トランプ政権は議会の強硬論が盛り上がる中で米中貿易交渉をまとめてきた経緯がある。米中交渉の最後の土壇場でトランプ政権から交渉上の障害となっていた対中最強硬派のランドール・シュライバー国防次官補が辞任している。
ロシアに融和的な姿勢を示しつつも現実にはNATO向けの軍事費を拡大し、新しい安全保障の枠組みを作るように努力している。また、ベネズエラ等の権威主義政権と中ロの関係を断つようにしており、中米諸国と不法移民の移動を制限することで連携している。そして、米国の軍事費は直近4年間で増加しており、実質的に機能不全に陥りかけた米海軍を立て直し、軍事力を誇示する修正主義勢力への抑止を図っている。
つまり、トランプ政権はほとんど戦争に繋がる行動をしていないどころか、実際には自国に対して強硬な姿勢を示す敵対勢力との間で、「力の担保」を持った上で、キーパーソンの更迭も辞さず、柔軟で粘り強い対話を行っている。
トランプ大統領のように独裁者・権威主義者と対話・交渉することで、力の現実の中で妥協点を見出していくことは、人権問題などの観点から極めて問題があるアプローチだろう。世界の自由主義社会のリーダーたる米国にとっては戦争・紛争の惨事を避けるための苦渋の選択だったように思う。
NEXT >>1 正しさは常に平和とともにあるわけではない
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No.1 主 朱鳥
20/07/11 12:46:50
◆正しさは常に平和とともにあるわけではない
一方、バイデン元副大統領が政権を担うことになればどうなるだろうか。選挙戦を通じてバイデンの外交・安全保障政策はいまだ全体像が見えてこない。ただし、バイデン元副大統領自身がForeign Affairsに寄稿した論文を読む限り、筆者は一抹の不安を感じざるを得ない。
同論文の中でバイデン氏は就任1年目に(1)政府腐敗との闘い、(2)権威主義からの防衛、(3)自国及び外国での人権の促進という3つのコミットメントを引き出す民主国家のためのグローバルサミットの開催を明言している
筆者はその趣旨に何ら異論はない。そして、バイデン元副大統領が述べているように、日本を含めた同盟国とその取り組みを進めていくことは政治的に正しい方向性だろう。しかし、正しさは常に平和とともにあるわけではない。
バイデン元副大統領はトランプ政権が軍事費を増加させることで再建した米軍をどのように運用するのだろうか。トランプ政権下で干されていたネオコン勢力が復活し、価値観による外交・安全保障を復活させた場合、その正しさは新たな戦渦を生み出す可能性が存在している。我々日本人はその戦渦がもたされる場所が中東ではなく東アジア・東南アジアになることも十分に想定するべきだろう。
トランプ政権は良かれ悪しかれ戦争や紛争を巻き起こすほど十分な軍事力や外交力を持つことはできなかった。しかし、仮にバイデン政権が誕生した場合、それらを作り出すだけの軍事力は既に回復しており、それらを正当化する「政治的な正しさ」も存在している。
もちろん戦時大統領以外は「戦争」を明言する大統領候補者は存在しない。筆者はバイデン元副大統領、そして民主党が持つ同盟国と歩調を合わせた敵対国への非妥協的なアプローチは、敵対国との偶発的な衝突を発生させるのではないかと危惧している。バイデン政権下において、戦争や紛争による惨事を回避するために、我々が何をできるかを真剣に考えるべきだろう。
・渡瀬 裕哉
国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。
https://www.newsweekjapan.jp/watase/2020/06/vs_2.php
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No.34 立花道雪
21/01/23 17:44:48
「もしあなたがカヌーで上流に向かって漕いでいる時に、車輪が落ちてしまったら、犬小屋にいくつのパンケーキが収まりますか? ゼロです! なぜならアイスクリームには骨がないからです!」
※バイデンの発言が支離滅裂であることを揶揄するネタ。現在78歳のバイデン大統領は遊説中に記憶違いや意味不明な発言、言い間違いを繰り返していたことから認知症が疑われている。
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