• No.2 今年こそは

    17/01/18 11:07:47

    >>1の続き

    ■地方の関係者も気づき始めた、カジノへの期待は「捕らぬ狸の皮算用」

     カジノ誘致に対し、自治体の態度は様々だ。

     静岡県熱海市の斉藤栄市長は、「熱海はカジノに頼らない街づくりをすべきだ」と誘致しない考えを示している(2016年12月27日 読売新聞記事)。長崎県佐世保市は対照的に、2007年から官民挙げてカジノ誘致に熱意を示し、2014年までに税金1600万円を投入していたということだ(2014年2月27日 『しんぶん赤旗』記事)。

     佐世保市のカジノ設置候補地は、すでに大規模リゾートとして整備されているハウステンボスの中だが、ある佐世保市出身者は「1992年に開業して以来、ほとんどずっと、業績不振や経営再建が続いているハウステンボスにカジノができても、そんなに大きな効果はないだろうと思います」と冷ややかだ。

     ハウステンボスは、長年にわたり、オランダの美しい町並みという魅力をアピールしてきた総合リゾート地だ。カジノが加わることで、アピールできる魅力が1つ増えることは間違いなさそうな気もする。しかし滝口氏はこう語る。

    「そこにしかない魅力を持った何かがないと、そもそも、客は来ません。カジノ産業の人々でさえ、『今の統合リゾートは、カジノ以外の魅力で人を惹きつけないと、客は来ない』と言っています」(滝口氏)

     ダイヤモンド・オンラインで連載中の『China Report 中国は今』第205回「マカオのカジノ産業が『脱賭博』で狙う新顧客層」では、ギャラクシー・マカオ社長のマイケル・メッカ氏が、カジノを中心としない統合ホリデーリゾートへの転換について語っている。同社のリゾート集客の中心は、かつてはカジノであったが、2015年にはカジノ面積はリゾート全体の5%、今後は2%まで縮小する予定があるという。メッカ氏の目標は、「ビジターによい体験をしてもらい、よい思い出を作ってもらえる」体験型リゾートをつくり上げることだ。

    「リゾートといえば、カジノ・ホテル・会議場・高級ショッピングセンター・高級レストラン……。一昔前なら、それでよかったのかもしれません。でも今は、そんな地域やそんなリゾートなら、世界のどこにでもあります。人を集めるには、それ以上の魅力、そこにしかない何かが必要なんです」(滝口氏)
     
     東京・横浜・大阪は、そもそも大都市で人が集まりやすいという背景があるため、カジノの集客に際しての困難は少ないかもしれない。

    「でも、他の地域はどうでしょうか。そこにしかない、『アッ!』と言わせるような魅力をつくるのは、なかなかハードルが高いですよ。美術館だって、まず『見たい』と思われる作品のコレクションをつくるために、巨額のお金が必要です。水族館は、水槽が大きければ良いというものではありません。そこにしかない魅力を備えた統合型リゾートをつくるのは……今、日本につくられている観光資源を見る限り、期待できそうにない気がします」(滝口氏)

     まだでき上がってもいないカジノに生活保護の人々が行く可能性を考え、入場を禁止したり規制したりすることを検討する前に、つくられようとしているカジノの顧客がどこの誰なのか、期待される経済効果や雇用創出が実現するのかどうかを、冷静に考える必要がありそうだ。

     しかし、いったんカジノができてしまえば、ギャンブルの間口は間違いなく広くなる。カジノの採算が取れるか否かとは無関係に、ギャンブル依存症の問題は無視できない。


    続く>> 専門治療を受けられない大多数のギャンブル依存症者たち

  • No.4 今年こそは

    17/01/18 11:12:49

    >>2の続き

    ■専門治療を受けられない大多数のギャンブル依存症者たち

     依存症からの回復支援に取り組む、元生活保護ケースワーカーの谷口伊三美氏は、すでに多数のギャンブル依存症者がいる日本で、何の対策もされていない現状を憂慮する。

     2014年8月29日、当時の厚生労働大臣であった田村憲久氏は、閣議後の記者会見において「厚生労働科学研究の結果としてギャンブル依存症が536万人、成人が(筆者注:「成人の」の誤記か)4.8パーセントとの報道がございました」と述べ、同時にカジノ法案との関連を否定した。

     問題は、ギャンブル依存症の治療を行える医療機関や専門施設が、非常に少ないことだ。どのような依存症でも事情はあまり変わらず、推定80万人のアルコール依存症者のうち専門治療を受けているのは約4万人、推定10万人の薬物依存症者のうち専門治療を受けているのは数千人。専門治療を受けているギャンブル依存症者は、さらに少ない。

     依存症の問題は、社会のあらゆる場所に存在する。なのに、なぜ必要な医療や支援は行き渡っていないのだろうか。

    「ギャンブル依存症は、身体が悪くなるわけではありませんから、医療行為としては、カウンセリングやグループミーティングなど、診療報酬に結びつきにくいことが中心になります。少なくとも、必要な治療を提供しながら医療機関を維持したり増やしたりして、専門の医師を増やしていけるくらいの報酬の裏付けができないと、難しいのではないでしょうか」(谷口氏)

     運営・維持が難しいのは、医療機関だけではない。

    「依存症の一部、たとえば薬物依存症の場合は、障害者福祉制度のもとでグループホームやデイケアを運営することも可能です。でも、一般的な障害とは異なる『依存症』という特殊な疾病のケアは、障害一般に対する福祉制度とは合わないところが多いんです。

     依存症の施設では、多くの場合、実際には24時間のケアが必要です。でも障害者福祉は、依存症者を24時間ケアすることは想定していません。施設から病院に入院することも多いのですが、入院中の報酬はありません。実際には、入院中も医療機関と施設の連携は行われているのですが……。『儲からない』以上、成り立たないんです。障害者作業所には企業が参入していますが、依存症者の支援に参入している企業はありません。経営が成り立たないからです」(谷口さん)


    ■まだ議論の時間は残されているこのままカジノがつくられてよいのか?

     この状態で、カジノが実際につくられてしまってよいのだろうか。カジノがつくられることを前提に、低所得層の入場制限や生活保護受給者の入場禁止といったことを、「対策」として議論してよいのだろうか。

     カジノを実際に設置する前提となるIR推進法の成立まで、1年弱だがまだ時間は残されている。「カジノをつくるから」という予定を背景に誰かの自由を制約するのではなく、多くの人々にメリットをもたらす依存症対策の充実などを先に推進し、その後、カジノの設置を慎重に検討してほしいところだ。
    (みわよしこ)


    ダイヤモンドオンライン 2017年1月6日
    http://diamond.jp/articles/-/113385

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