• No.1 今年こそは

    17/01/18 11:04:50

    ■カジノの見込み客は外国人ではなく日本人という現状

     では、カジノのメリットを主張する人々は、どう考えているのであろうか。

     カジノ法の成立翌日、2016年12月17日に発表された、小池隆由氏による東洋経済オンラインの記事「日本版カジノは大きな成功が約束されている」2ページ目には、「IRの利益規模は、後背とする商圏の大きさ(日帰り圏内の経済規模)、施設数(施設間競争)でほぼ決定する」とある。施設が適度に集中していて過当競争にならず、一定の経済力を持った一定数の見込み客が近隣地域に存在するのであれば、成功しやすいビジネスではあるだろう。問題は、「日帰り圏」という以上、見込み客として想定されているのは、主に日本の住民であるということだ。

     さらに同記事には、東京オリンピック・パラリンピックが終了している2021年以後の営業利益見通しとして、関東で2000億円、関西で1000億円、地方では仙台空港周辺・鳴門市・佐世保市への設置を想定して、それぞれ100億円以上という推定が述べられている。小さくない経済効果であることは間違いないが、その経済効果の大部分は、海外からの観光客が日本にもたらすわけではない。

     結局のところ、カジノの必要性を主張してきた人々も、いつ、どのような理由で日本に来なくなるかわからない外国人観光客ではなく、片道1~2時間程度の範囲にいる日本人住民を、主要客層と考えざるを得ないのだ。カジノをビジネスとして成立させ維持する以上は、当然のことであろう。

     しかしそれでは、外国人訪日観光客による消費が地方を活性化するというよりは、「現在の内需の一部がカジノ方面に移る」と見るのが実際に近いのではないだろうか。日本全体ではゼロサムゲームとなる可能性も、空腹のあまり自分の脚を食べてしまうタコのように日本全体の資源が減少する可能性もある。少なくとも、それらの可能性の全否定はできそうにない。

     依存症を研究している社会学者の滝口直子氏(大谷大学教授)は、日本人にとってのカジノの魅力を、「海外のカジノ産業は、日本でカジノが解禁されたら、パチンコの客がカジノに移ってくると考えているようですが、そう、うまくいくでしょうか」と疑問視する。

     滝口氏によれば、連載第74回で紹介したとおり、カジノにはヨーロッパ型の伝統的な「ギャンブルもできる小・中規模な社交場」タイプと、米国・マカオ・シンガポールに多く見られるマシーン中心の大規模カジノの2通りがある。一般の日本人が対象であるとすれば、想定されるのはマシーン中心の大規模カジノの方だろう。しかし日本には、すでにパチンコ・スロットが多数あり、アクセスが容易すぎることから、数多くの問題が生まれている。

    「日本には、世界のギャンブルマシーンの60%があるんです。そんな国は、他にありません。それに、カジノに置かれるギャンブルマシーンより、パチンコの方が刺激は強いんです。言い換えれば、パチンコの方がマシーンの洗練度は上なのです」(滝口氏)

     この現状は、『ビッグイシュー』の記事「世界のギャンブルマシーンの60%も集中しているギャンブル大国日本の現状レポート」に詳しい。いずれにしても、数多くの日本の住民が最寄り駅前の長年馴染みのパチンコ屋に行くのを止め、電車で遠くに出かけてカジノで遊ぶことを選ぶかどうかに関しては、不確定要素が大きそうだ。

    続く>> 地方自の関係者も気付き始めた、カジノへの期待は未知数

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返信コメント

  • No.2 今年こそは

    17/01/18 11:07:47

    >>1の続き

    ■地方の関係者も気づき始めた、カジノへの期待は「捕らぬ狸の皮算用」

     カジノ誘致に対し、自治体の態度は様々だ。

     静岡県熱海市の斉藤栄市長は、「熱海はカジノに頼らない街づくりをすべきだ」と誘致しない考えを示している(2016年12月27日 読売新聞記事)。長崎県佐世保市は対照的に、2007年から官民挙げてカジノ誘致に熱意を示し、2014年までに税金1600万円を投入していたということだ(2014年2月27日 『しんぶん赤旗』記事)。

     佐世保市のカジノ設置候補地は、すでに大規模リゾートとして整備されているハウステンボスの中だが、ある佐世保市出身者は「1992年に開業して以来、ほとんどずっと、業績不振や経営再建が続いているハウステンボスにカジノができても、そんなに大きな効果はないだろうと思います」と冷ややかだ。

     ハウステンボスは、長年にわたり、オランダの美しい町並みという魅力をアピールしてきた総合リゾート地だ。カジノが加わることで、アピールできる魅力が1つ増えることは間違いなさそうな気もする。しかし滝口氏はこう語る。

    「そこにしかない魅力を持った何かがないと、そもそも、客は来ません。カジノ産業の人々でさえ、『今の統合リゾートは、カジノ以外の魅力で人を惹きつけないと、客は来ない』と言っています」(滝口氏)

     ダイヤモンド・オンラインで連載中の『China Report 中国は今』第205回「マカオのカジノ産業が『脱賭博』で狙う新顧客層」では、ギャラクシー・マカオ社長のマイケル・メッカ氏が、カジノを中心としない統合ホリデーリゾートへの転換について語っている。同社のリゾート集客の中心は、かつてはカジノであったが、2015年にはカジノ面積はリゾート全体の5%、今後は2%まで縮小する予定があるという。メッカ氏の目標は、「ビジターによい体験をしてもらい、よい思い出を作ってもらえる」体験型リゾートをつくり上げることだ。

    「リゾートといえば、カジノ・ホテル・会議場・高級ショッピングセンター・高級レストラン……。一昔前なら、それでよかったのかもしれません。でも今は、そんな地域やそんなリゾートなら、世界のどこにでもあります。人を集めるには、それ以上の魅力、そこにしかない何かが必要なんです」(滝口氏)
     
     東京・横浜・大阪は、そもそも大都市で人が集まりやすいという背景があるため、カジノの集客に際しての困難は少ないかもしれない。

    「でも、他の地域はどうでしょうか。そこにしかない、『アッ!』と言わせるような魅力をつくるのは、なかなかハードルが高いですよ。美術館だって、まず『見たい』と思われる作品のコレクションをつくるために、巨額のお金が必要です。水族館は、水槽が大きければ良いというものではありません。そこにしかない魅力を備えた統合型リゾートをつくるのは……今、日本につくられている観光資源を見る限り、期待できそうにない気がします」(滝口氏)

     まだでき上がってもいないカジノに生活保護の人々が行く可能性を考え、入場を禁止したり規制したりすることを検討する前に、つくられようとしているカジノの顧客がどこの誰なのか、期待される経済効果や雇用創出が実現するのかどうかを、冷静に考える必要がありそうだ。

     しかし、いったんカジノができてしまえば、ギャンブルの間口は間違いなく広くなる。カジノの採算が取れるか否かとは無関係に、ギャンブル依存症の問題は無視できない。


    続く>> 専門治療を受けられない大多数のギャンブル依存症者たち

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