戦争をすると言った人 へのコメント(No.196

  • No.195 続き

    11/10/26 23:48:09

    >>194
     「絶対者」というコトバに引っかかった。

    無意識だろうが、その底には、シベリアで体験した、もうひとりの「絶対者」が屹立(きつりつ)していたはずである。

     本名=ヨシフ・ヴィッサリオノヴィチ・ジュガシヴィリ。

    スターリン(「鋼鉄の人」の意)である。

     広大にひろがるユーラシア大陸の、東はカムチャツカ半島やハバロフスク、西はカスピ海の付近まで、赤や紺、黒色の丸い印が点在している。

    赤は2万人以上、紺は1万人以上などとあり、その多くはシベリア鉄道沿いにあった。

     旧厚生省が、終戦直後に作成した日本人収容所の分布図である。
    抑留者は60万人から80万人とされるが、正確な数字は分からない。

     「鋼鉄の人」が労働力不足をおぎなうために作らせたラーゲリ(収容所)には、日本人だけでなく、ドイツ人やロシア人の政治犯ら、3千万人から4千万人が収容された。

    まさに「収容所群島」であった。

     囚人を苦しめたのは、慢性的な食糧不足と寒さであった。

    評論家、内村剛介の『生き急ぐ』によると、1日の食事は「砂糖9グラム、塩漬けのニシン22グラム、黒パン550グラム、茶5グラム」であった。

     頻繁に汽車で移動させられた。

    画家、香月泰男の「シベリア画集」には、亡霊のようにやせ細った囚人たちが、車両の鉄格子から顔をのぞかせた作品があった。

    詩人の石原吉郎は、行間から屍臭(ししゅう)がただよってくる「葬式列車」を書いた。

    続く

  • No.196 続き

    11/10/26 23:53:13

    >>195
     三波が収容されたのは、ハバロフスクであった。

    友人でもある永六輔との対談『言わねばならぬッ』で、「永さんは、飢えたことがありますか」と訊いた。

    永が子供のころ、「二合五勺」の配給で腹を減らしたことがあると応じると、

     「永さん! 飢えたのと、腹がへったのは違います(略)。戦友はコメの夢を見ながら死んでいったのです!」

     と、反論した。

    強制労働のはて、何人もの同胞の死をまのあたりにしたのであろう。

    「神さま」のスターリンは、その死を冷たく見下ろすだけであった。

     大江戸線という、趣味のわるい名前の地下鉄の新江古田駅でおり、すぐに南にくだる道に出た。
    江古田通りという。
    商店街から住宅街と続き、やがて右手に広大な森がかいま見えはじめた。

     江古田の森だ。
    森のなかに入ると、樹液の匂いが鼻をうった。
    武蔵野の自然が残っているのであろう。
    江戸期、このあたりで将軍が鷹(たか)狩りをしたという。

     歌手として成功した三波は、この森を背後に控える江古田通り沿いに豪邸を建てた。

    通りの名前は、いつしか「チャンチキ通り」と呼ばれるようになった。

     永や瀬戸内を吃驚させたように、三波は博覧強記の人であった。
    仕事のないときは、家に引きこもり、膨大な史料をあさって、大長編歌謡浪曲「平家物語」など、多くの作品をつくった。

     傑作「元禄名槍譜 俵星玄蕃」も、自ら作詞した。

    玄蕃が雪のなかを駆けていく語りの場面では、曲の途中なのに拍手があがるほどであった。

     ザック、ザック、ザックと、吹雪の原野を行進させられた同胞たちへの鎮魂の思いを重ねたのではないだろうか。

    精神に失調をきたし、雪原のかなたに「そば屋」の赤提灯(ちょうちん)を幻視した者もいたかもしれない。

     病死や餓死、凍死、狂死、自殺、刑死など、日本人の死者は約6万人とされる。

    アウシュビッツから奇跡的に帰還したフランクルの『夜と霧』のエピグラフが浮かんだ。

    「すなわち最もよき人々は帰ってこなかった」--


    【メモ】

     長岡は、維新の際の河井継之助や連合艦隊司令長官、山本五十六の出身地としても知られる。
    小泉純一郎元首相の「米百俵」発言の舞台にもなった。
    塚山へは新幹線東京駅から上越新幹線長岡駅で下車、信越本線に乗り換え。

    完。

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