• No.1 ライスシャワー

    23/09/23 22:21:56

    ■刑務所で加害者に面会して交わした『約束』

     2018年3月、眞野さんはある行動に出ました。刑務所に収監中のMに面会することを決意したのです。

     突然の遺族の来訪を、Mは受け入れました。そして、眞野さんは初めて加害者本人と直接対面することになったのです。

    「息子の命を奪った男は、グレーの作業着に身を包み、刑務官に連れられて私の前に現れました。身長193センチの大きな身体で、頭は丸坊主でした。『こいつが息子を殺したんだ……』何とも言えない思いがこみ上げました」

     面会時間はわずか20分です。

     眞野さんは振り返ります。

    「私は彼にこう尋ねました。『今、どういう気持ちなんだ』と。すると彼は、『申し訳ない』と言いました。『では、刑務所を出たら、息子に謝罪に来るように、そして、少しずつでもいいから賠償し、誠意を見せるように』私がそう言うと、『わかった、一生かけて償う。約束する』と答えました。『約束だぞ』私は彼の言葉を信じ、面会室のボード越しに、グータッチをして別れたのです」

     翌月、眞野さんは再び面会に出向きました。しかし、Mは「会いたくない」と拒否しました。

     まもなく、Mは刑期を満了して出所しました。

     しかし、それから1年たっても、眞野さんのもとに謝罪に訪れることはありませんでした。

    ■遺族に黙って母国ブラジルへ帰国していた加害者

     民事裁判の判決は、10年で時効を迎えます。それを有効にしておくためには、再度、提訴する必要があり、そのためにはMの住所が不可欠です。しかし、Mが出所後、どこに住んでいるのか、遺族にはその情報すら伝えられません。

     途方に暮れた眞野さんは、弁護士に調査を依頼し、Mの現住所を調べることにしました。東京出入国在留管理局長宛てに照会もしました。費用はすべて眞野さんの自己負担です。

    「その結果、Mは出所後、母国であるブラジルに帰国していたことが判明しました。しかし、現地の住所まではわからないというのです。そもそも、民事裁判で判決が確定しているのに、賠償義務を負った外国籍の被告を、なぜ原告に一言の通知もなく帰国させてしまうのか……。現状の法律では何ひとつケアできておらず、あまりに理不尽ではないでしょうか。国として外国人を受け入れるなら、最低限のルールを作ってほしいと強く思います」

    ■真の「被害者救済」とはなんなのか

     国は「犯罪被害者給付金」という制度を作りました。しかし、これは『殺人などの故意の犯罪行為により不慮の死を遂げた犯罪被害者の遺族、または重傷病、もしくは傷害という重大な被害を受けた犯罪被害者』が対象です。眞野さんのように「過失」による事故の遺族は対象ではありません。

    「最近、さまざまな自治体で犯罪被害者に対する条例が制定されていますが、自分が当事者となった今、真の被害者支援とはなんなのか、本当に考えさせられます。民事で判決が出ても賠償金を1円も受け取ることができないなど、救済から取り残された被害者は大勢います。日本はもっと被害者支援先進国になるべきです。そのためには北欧諸国に見られるような被害者庁の創設も検討すべきではないでしょうか。日本の犯罪被害者が置かれているこんな状況は、誰かが国に向けて叫び、変えていくしかないと思うのです」

     今年で事故から11年。Mの所在地は現在も不明です。

     弁護士からは、ブラジルの住所を突き止めるには、莫大な費用がかかるので不可能だと言われています。また、現地へ行って調べることには危険が伴うとも。

     しかし、眞野さんは決してあきらめていないと言います。

    「私はブラジルへ何度でも出向き、徹底的にMを探し出します。そして、謝罪させるつもりです。もちろん、賠償金など取れないことは覚悟しています。お金が欲しいなどという気持ちは1ミリもありません。ただ、あの日、『一生償う』と約束した彼の誠意が見たい、息子の前で手を合わせてほしい……、それだけです。彼がどう償うのか、見届けたいのです」

    https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/84134d7334eeba456bdb341182fd0eb06e43e7b0

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