日本昔ばなしの伝説回

匿名

23/03/27 09:53:11

キジも鳴かずばば

昔あった、恐ろしくて悲しい話です。今でいう長野県の犀川(さいがわ)という川のほとりに、小さな村がありました。そこには妻に先立たれた弥平という男と、娘の千代が暮らしておりました。弥平の妻は、数年前に洪水で命を落とし、それからふたりは身を寄せ合って生きていたのです。

 そんなある日、千代が重い病で寝込んでしまいます。千代は、かつて母親が生きていた時に一度だけ食べたことがある、「小豆まんま」を食べたいとせがみます。しかし、弥平の家は貧しく、小豆も米もなかったのです。

 思い悩んだ弥平は地主の家から米と小豆を盗み出し、千代に食べさせました。そして、千代は無事に元気になりましたが、小豆まんまを食べられたうれしさのあまり、千代は外に出て手毬をつきながら「小豆まんま食べた」と歌ってしまったのです。その歌声は、村人に聞かれていました。

 その後、村は大雨に見舞われました。川の反乱を鎮めるために咎人を人柱とすることになり、米と小豆を盗んだことがバレていた弥平に、白羽の矢が立ったのです。村人に取り囲まれた弥平は、千代に「心配するでねえ。おとなしゅう待っとるだぞ」と言い残して引っ立てられて行き、そのまま帰ってくることはありませんでした。生贄として、土手に埋められてしまったのです。

 そして、後に自分の歌が原因で父親が人柱にされたことを知った千代は、誰に話しかけられても口を利かなくなりました。それから何年もの時が経ち、ある猟師がキジの鳴き声を聞き、鉄砲で撃ちます 。猟師がキジの元へたどり着くと、そこにはキジを抱えた千代が佇んでいたのです。千代は「キジよ。お前も鳴かなければ撃たれないで済んだものを」と呟き、そのまま姿を消しました。

 それから、千代の姿を見たものは、いなかったそうな。

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