• No.1 落武者

    20/07/23 09:19:44

    続き

     そこに今回の「Go To トラベル」など政府系事業が単発1兆7000億円の助成金を観光業に投下します(略)

     そして、そこには「観光業が地域唯一のまともな民間事業である」という地方経済の現実がぶら下がっています。仮に、MMT(現代貨幣理論)による積極財政だと叫び、国債を新たに30兆円積み上げて日本銀行に引き取らせ、全額を観光業界に突っ込んだとしても、コロナウイルス対策が収束しない限りは半年ちょっとしかもちません。

     日本経済全体の経済規模は年間約550兆円と言われています。(略)つまり、日本経済というのはそれだけ民間経済の規模が大きいということです。その民間経済がコロナショックによって四半期マイナス10%成長に陥るだけで、ふた桁兆円が消えてしまうことになるのです。

     多くの方が政府の能力や財源の余力を過剰に見積もりすぎており、まるでたくさん国債を出しさえすれば積極財政で経済が回復するという宗教にハマってしまっているかのように見えます。

    ■JR北やANA、JALに迫る国有化危機

     しかしながら、観光業のバブル崩壊と一蓮托生になる地方経済は状況がまた変わってきます。観光業が破滅的に低迷することで崩壊の危機に瀕する自治体が続出する危険性がありますし、ホテルや旅館のような観光業のみならず、観光客の移動を担うバス会社やタクシー会社など地元の足を支えてきた交通業も次々と破綻しかねません。

     そればかりか、JR北海道のような地元経済の根幹となるような公共交通機関や航空会社も何もしなければ破綻しかねません。

     JR北海道は政府が何も対応策を考えなければ、2020年度を超えられるかどうかすら微妙な情勢に追い込まれるでしょう。2021年度に入っても、なおコロナウイルスの猛威が収まらず経済低迷が続くようであれば、日本航空と全日空すらもどうなるか分かりません。そして、こういった事態の収拾において、我が国がすべての産業を等しく支える財政出動など、どれだけ国債を新発しても無理であるということは考えておかなければなりません。

     さらに悪いシナリオは、地方経済の崩壊とともに破綻企業が続出した結果、地場の地方金融に融資の焦げ付きが連発して、信用保証協会付きではない一般的な貸し出しの不良債権化によって地場の金融機関の破綻が連鎖することです。これを食い止めるには、地域の金融機関を合併させて束ね、受け皿銀行をつくり、そこに公的資金を注入してどうにかする、という以上の解決策は見当たらないのが実情です。


     それでも何とか地方経済の崩壊を食い止め、地元の人たちが仕事を求めて都市部に移動するというような事態を避けるためにはどうすればいいのでしょうか。

     その第一は、雇用の確保による生活の安定のために、公共性の高い企業については5年や10年などの期限を切って思い切った国有化・公社化を進める令和版ニューディール政策を実施することです。地方で大量に発生する失業者とそれに伴う人口移動、地方のさらなる過疎化を計画的に、制御可能な形で進めていくしかないのではないかと思います。(略)

     MMT政策でさらなるばらまきをしたところで、仕事を失った人たちが生きていくには金額的に不十分ですし、再就職できるまでの間に何回ばらまけるのか、という問題は残ります。

     つまるところ、地元の雇用をつくり、当面は不採算でも生活の糧を得る中で生産性を高め、地方自治体の再々編を進めながら、過疎地での居住を制限するなどして、電気やガス、水道、ネット、道路などのライフラインや公共インフラを削減していかざるを得ないでしょう。(略)

    期限をしっかりと切った国有化・公社化の推進と地域金融機関の再編、また地方自治体の再々編のような抜本的な対策を打つ必要があると思います。(略)

     日本が自らの手によって日本全体を上手く救うために必要な議論とは、限りある財源・税収を合理的に使って国民の生活を守り、若い人たちに希望を持たせて出生率を確保しつつ、兵站計画を立てて「再起可能な縮小」をいかにして図るかということだと思います。あだ花のように見える「Go To トラベル」が描き出した問題を正しく受け止め、急激に高齢化の進む人口減少先進国として誇れる政策を描き出す必要があるのではないでしょうか。

    [写真]外国人旅行客で賑わった京都・東山も今は昔(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

    ジャパンビジネスプレス
    https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/61376

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