• No.1 延享

    20/05/13 12:07:04

    テレビのコメンテーターになっている医師たちが、「(簡単ですよとは言わないまでも)私も研究で何百回となくやりましたが」とか、「人をかき集めて訓練すればできますよ」などと言っているのを聞いて、正直、腹が立ちますね。現場を知らない、完全に上から目線。「検査技師なんて」という一段下に見る感じも透けて見える。

    自分の研究のために大した時間の制約なくやっている先生たちと現場の技師の置かれている状況は違う。現場には次から次へと検体が送られてきて時間に追われて、かつ、失敗が許されないという緊張を強いられながら仕事している。


    ■無理をすると「検査崩壊」になる

    ――日本のPCR検査件数が海外よりも少ないという批判が多いのですが、専門家会議の資料でも、「制度的に、地方衛生研究所は行政検査が主体。新しい病原体について大量に検査を行うことを想定した体制は整備されていない」とあります。

    そう。システムとしてつくってこなかった。だが、今、海外と比べて少ないとか、これまで何やってたんだとか、過去を振り返って騒いでばかりいる。ないものねだりではなく、今あるものとこれから先を考えなくてはならない。そこで、検査の人材養成はそんなに簡単じゃないですよということは言っておかないといけない。無理すれば、今年の冬にもういちど大流行したときに検査が追いつかず「検査崩壊」が起きる可能性もある。

    ――先生は「日経メディカルオンライン」でRNA抽出キット(PCR検査の前段階としてRNA遺伝子を抽出するもの)がすべて輸入品で入手が難しいことを指摘なさっていました。

    その問題は非常に危機感があった。世界中で検査しているためなのか原因はよくわからないが、最もよく使われていた欧州の製品の供給が細くなり、アメリカのものも入ってこなくなった。ここへきて国内企業ががんばって作って配りはじめたので、だんだん解消されていくのかもしれない。ただ、それも検査を増やすペースによる。

    ――RNA抽出からDNAの増幅・検出まで全自動で行う検査機器の開発も進んでいるようです。

    全自動で検査できるPCRの機種は限られていて現状ではどこの施設でも使えるわけでもない。主要なメーカーはアメリカ企業なので急に大量に購入しようとしても供給を受けられるのかわからない。値段が高くて簡単に購入できないという問題もある。今各地の衛生研究所にある機器の多くは新型インフルの大流行のあとにようやく配備されたものだ。また、全自動だからと際限なく検査すれば、同じように試薬やそのほかの資材の不足が生じる。

    全自動では技師のミスによる偽陽性がたくさん出るということはなくなるだろう。だが、感度が高いことによる偽陽性の問題や検体採取の難しさによる偽陰性の問題など、PCRの根本的な問題はまったく解決しない。むしろ「全自動」という言葉が独り歩きして、医師を含む一般の人たちが無謬(むびゅう)の検査のような印象を持つことが怖い。

    ――簡易検査も盛んに喧伝されています。

    最近は、イムノクロマト法で抗原検査なら簡単で15分でできるという話が出てきた。それでよしとするなら簡単だけれど、実はその感度がPCRに比べたらすごく低い。ほとんど陰性になって、それで済まそうというのは悪魔の誘惑だ。それで出た結果を従来のPCRによる結果と同じと見るんですか、という問題が生じる。その結果の解釈と使い方をあらかじめ決めておく必要がある。それがないとこれも混乱の源になりかねない。

    続き>>2 ■検査資源に限りがある中でどう戦うのか

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