- なんでも
- 弘安
- 19/06/03 21:40:17
殺された息子・熊沢英一郎氏は、確かにどうしようもないダメ人間だろう。しかし、それを惨殺した父を「立派な人」として祭り上げる風潮には疑問が残る。本当にそうだろうか?
熊沢英昭氏は、農政事務次官に就任した2001年、エリート官僚らしい傲慢な発言を連発し、悪い意味で「時の人」となったことがある。第一次小泉内閣が発足する前後のことだ。
まず、就任直後の2月、有明海のノリ不漁問題に際して、諌早湾干拓事業の工事現場で漁業者が座り込みの抗議を行ったことに対して、「実力行使のような混乱した状態は残念だ」と、漁業者たちの神経を逆撫でするような発言をして物議をかもした。さらに、その年の6月、欧州委員会から「日本の畜産業はBSE感染の危険性が高い」と指摘されたことに対し、「日本ではありえない。ぬれぎぬを着せられたようなものだ」と反論。ところが、その年の9月に国内でもBSE感染牛が確認される。省内は大混乱に陥り、対応は後手に回った。さらに、1996年に感染源となる肉骨粉の輸入禁止や供与禁止について、専門家から指摘を受けながら行政指導に留めていたのも、当時畜産局長だった熊沢英昭氏だったことが発覚し、彼は農政事務次官に就任してわずか1年で辞任に追い込まれる。
ところが、熊沢英昭氏は8874万円もの退職金を満額で受け取り、業界団体に高給で雇用される。これが日本中のバッシングを巻き起こし、霞が関を揺るがせた「官僚の天下り問題」だ。
小泉内閣の迅速な対応もあり、彼はまたしても辞任に追い込まれるが、なぜか業界団体からも退職金を受け取った上で、駐日チェコ大使に「栄転」した。
これらは、息子・英一郎氏が20代半ばだった頃の出来事だ。
彼は中学2年のとき、母親にガンダムのプラモデルを壊されたことを恨み、初めて「殴り倒した」とSNSで告白している。本当にそれだけであれば、愚息の一語に尽きるだろう。しかし、プラモデルを壊されたというのは象徴的な出来事であり、幼少期からずっと価値観を抑圧され、父のようなエリートになるために、苦行のように勉強することを強いられてきたのではないだろうか。その父親が、傲慢な発言を連発して、辞任に追い込まれながらも天下りし、栄転した熊沢英昭氏なのである。
息子・英一郎氏の性格には、この両親の影響が色濃く反映されているように思われてならない。
父・英昭氏は息子から日常的に暴力を受けていたという。しかし、英一郎氏は最近まで一人暮らしをしており、実家に戻ったのは10日前。「日常的に暴力」というのは、10日間の出来事なのである。長年、ひきこもりの息子の暴力に苦しめられていた親というわけではない。
さらに、殺し方にも違和感がある。寝ている息子を包丁で滅多刺しにするというのは「老いた父親がやむにやまれず」という殺し方ではない。そこに感じられるのは、強い恨みと殺意だ。
周囲に迷惑をかけてはいけない、という殺害の動機には真実があるだろう。しかし、それ以前に、我が子をかけがえのない存在と認め、大きな親の愛情をもって更生に導こうとはしたのだろうか。
父・熊沢英昭氏を「正義」、息子・英一郎氏を「悪」として片付けようとする風潮は、子育てに失敗し、周囲に迷惑をかけそうなら殺せばいい、という親のエゴを肯定しているように思えてならない。
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