かぼちゃプリン
ある日突然、犯罪に巻き込まれ重傷を負ったり、亡くなったりした被害者やその家族。人生が一変してしまった彼らに対するサポート体制はまだまだ不十分というのが現状だ。
たとえば、お金の問題。被害者側が損害賠償を請求しても、実際に支払われることは珍しく、多くは踏み倒されてしまう。国の「犯罪被害者等給付金」にしても、遺族ですら支払われるのは平均500万円ほどでしかない。
いかにして犯罪被害者をサポートするかは、日弁連が10月5日に開く「人権擁護大会シンポジウム」のテーマの1つでもある。被害者支援を続ける武内大徳弁護士(神奈川県弁護士会)は、「北欧で導入されている国による損害賠償の立て替え払い制度が理想」と日本における被害者支援の不足を指摘する。
●賠償金の踏み倒しが横行…背景に差し押さえの困難さや加害者の資力
サポート体制をめぐっては、2005年に「犯罪被害者等基本法」が施行され、さまざまな制度が整えられた。一方で、「近年は踊り場感というか、停滞ムードに対する危機感もあります」と武内弁護士。現状でもまだまだ課題は多いという。
犯罪被害者が経済的に被害を回復しようとした場合、民事訴訟を起こすのが一般的だ。しかし、仮に1億円を請求しようとしたら、裁判を起こすだけで32万円(印紙代)もかかり、判決までの期間も長い。
そこで2009年から一部の重大犯罪には、「損害賠償命令制度」が導入された。有罪判決後、刑事裁判の裁判官がそのまま賠償金の審理を行うというもので、請求額に関わらず費用は一律2000円、期日は原則4回以内と「安くて速い」のが特徴だ。
しかし、武内弁護士は「判決をもらったとしても、現実に回収するのは難しい」と指摘する。
日弁連が2015年に行ったアンケート調査によると、殺人などの重大犯罪について、賠償金や示談金を満額受け取ったという回答はゼロ。6割の事件では、被害者側への支払いが一切なかったという。
問題点は大きく2つ。1つ目は、差し押さえの難しさだ。債務者(加害者)は賠償金を払わなくても罰せられることはない。一方、債権者(被害者)は自ら、差し押えるべき財産を探し出さなくてはならない。
たとえば、中学1年生の男子生徒が窒息した山形マット死事件(1993年)では、逮捕・補導された元生徒7人に計約5760万円の支払いを命じる判決が2005年に確定したが、賠償金は支払われなかった。遺族は給与の差し押さえを行ったが、うち2人に関しては勤務先が特定できず、再提訴して時効を防いだ経緯がある。
差し押さえの決まりについては、現在、法務省で見直しが検討されている。しかし、仮に差し押さえが容易になったとしても、より大きなハードルが存在する。それが問題の2つ目、相手に資力がないという点だ。
「究極の壁。悲惨な事件ほど、加害者がお金を持っていないという傾向があります」と武内弁護士。回収の可能性も踏まえて、訴訟を検討するのが実際だという。
●国の給付金はあくまでも補助的な位置付け
こうした被害者に対し、補助的に給付されるのが、国の「犯罪被害者等給付金」だ。たとえば、被害者遺族には2964万5000円~320万円が支払われることになっている。しかし、警察庁によると2016年度中、遺族に支払われた金額の平均は486万円だった。
予算の問題は当然あるとして、給付金が補助的な位置付けにとどまっていることも十分な金額が支払われない理由の1つだ。各種保険や損害賠償が入れば、給付金は減額されてしまう。
中には、殺人事件の被害者遺族が、加害者から月々5000円の支払いを受けることになったところ、給付金が支給されなくなったというケースもあったという。仮に50年払っても300万円にしかならないのにである。
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