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- 16/07/03 19:19:49
産経新聞 7月3日 14時0分
南半球のブラジルはこれからが冬季。蚊を媒介にしたジカ熱の収束が期待されるが、ところが今度は豚インフルエンザの拡大が懸念されている。ブラジル保健相が6月22日、今年1月からの死者が1003人となったと発表した。気温が下がる8月頃までがピークで、感染者が増える傾向にあるという。五輪が8月5日から開催されるリオデジャネイロ州では150人の感染と44人の死亡が報告され、選手にとっては新たな不安材料だ。経済の低迷や政治危機、多発する犯罪に加え、リオ五輪を取り巻く環境は厳しさを増すばかりだ。
■もうジカ熱ではない
豚インフルエンザの拡大は4月には顕在化していた。AFP通信(電子版)は4月1日付で、最近2カ月以内に豚インフルへの感染で46人が死亡しており、保健省によると昨年1年間の死者数の10倍に達していると報じた。
死者1003人は、2009年に2060人が死亡して以来の深刻な事態という。今年1月3日~6月11日の感染件数は5214件で、件数に対して死者の割合は単純計算で約20%に達し、異常性が垣間見える。
ウイルスへの感染はブラジルのほぼ全域に及ぶが、南東部に感染者が集中。政治、経済の中心であるサンパウロ州では被害が大きく、2197人が感染し、434人が死亡しているとAFP通信は伝える。
リオ五輪への出場を留保していた世界ランク4位のロリー・マキロイは6月22日、ジカ熱への懸念から五輪出場を辞退すると表明。声明で「ジカ熱への感染リスクは低いとされているとはいえ、それはリスクであり、私が負うことを望んでいないリスクだ」と語った。
ジカ熱懸念の払拭に努めるバロス保健相は記者会見で、リオ市内で五輪観戦中に感染する恐れはほぼゼロに近いと指摘。「統計から予想される感染確率は五輪観戦に訪れるとみられる外国人50万人中1人未満だ」と強調したが、問題は次のステージに移っており、政府の対策の遅れをうかがわせるだけだ。
■選手も襲われる
懸念は豚インフルだけではない。14年サッカー・ワールドカップ(W杯)ブラジル大会の際にも指摘された犯罪率の高さだ。AFP通信によると、豪州のパラリンピック・セーリング代表選手ら2人が6月19日朝、リオ市内で2人組に拳銃を突き付けられ、乗っていた自転車を奪われるという強盗被害に遭った。選手らにけがはなかったようだが、豪州セーリング団体は「チームは動揺している」とし、五輪・パラリンピック中の治安対策に懸念を投げかけた。
ブラジルの五輪候補の射撃選手が6月9日、リオ市内で強盗に頭部を撃たれて重体に。5月には同市内でスペインのセーリング五輪代表メンバーが拳銃を突き付けられて金品を奪われていた。
AFP通信によると、リオ市では今年1~4月の殺人発生率が昨年同期より16%も増加。これに伴い、当局は8万5000人の警官と兵隊を動員し、五輪の安全を守るとしている。
まるで米映画「バットマン」の舞台となっている架空都市「ゴッサム・シティー」よりも凄惨な治安状況ではないか。それを思わせるかのように、サッカー元ブラジル代表、リバウドは「自分の国にいなさい。ここに来たら命が危ない」と訪問の自粛を強く呼びかけている。
■五輪に陰落とす貧困
14年の統計によると、人口約645万人のリオ市で殺人事件は1237件発生しており、日本の1.17倍という。強盗は7万9262件で約25.9倍に達するという。
高い犯罪発生率の理由は、貧困と富の分配の偏りといわれる。それを裏付けるように、ブラジル政府が6月1日に発表した今年1~3月の国内総生産(GDP)の伸び率をマイナス5.4%と低迷。それに伴い、今年2~4月の失業率は11.2%で、失業者数は前年同期と比べ約20%増の1140万人に膨らんだ。
五輪を開催するリオ州が6月17日、深刻な財政危機により治安や保健、教育、交通などの行政サービスが実施できなくなるとして「非常事態」を宣言し、政府は29億レアル(約890億円)の緊急支援を行う方針を明らかにした。この財政状況では市民の生活を改善できるわけもなく、3月には汚職や経済低迷に抗議する人々が全土で約300万人参加の「歴史的」といわれるデモが行われた。
地元メディアなどによると、ブラジル南東部ミナスジェライス州では聖火リレーを予定していた約35都市のうち3都市が辞退を表明した。このうち人口約24万のイパチンガ市は財政再建に取り組んでおり、リレー式典などに必要な18万レアル(約540万円)の支出は難しいと説明。「職員の給与支払いや市民サービスを優先したい」と訴えたという。
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