性暴力の実相 身内 「安心な家庭」描けず

匿名

匿名

15/11/21 01:32:46

「夜中に目が覚めるとお父さんの顔が横にあって…。それがすごく嫌だった」。10代後半のアイさん=仮名=が、里親のカズコさん=同、50代=にこう漏らしたのは昨冬のことだった。
 幼少期に親を亡くしたアイさんは、小学生になったころ親戚の夫婦に引き取られた。養父から性虐待が始まったのは、小学校高学年のとき。夜に体を寄せてきて「(セックス)させなかったらたたかれた」。
 回数は週1回ぐらい。殴られるのが嫌で、すぐに終わると思って我慢した。口止め料のつもりだったのだろう。養父はプレゼントを買って来てくれたが、何も知らない義姉たちからは疎まれた。
 「暴力を受けている」と、担任の教諭に打ち明けたのは中学3年のころ。アイさんは児童相談所に保護された。「自分がされていた行為の意味を知り、耐えきれなくなったんでしょう」。カズコさんは少女の胸の内を思いやる。
   ◇    ◇
 児童養護施設に入所したアイさんは、荒れた。職員を無視したり、突然暴れたり…。集団生活になじまないと判断され、カズコさんの元に来た。
 親元で暮らせない子どもたちを、何人も見てきたカズコさんは言う。「性虐待を受けた子は、みんな精神的な問題を抱えている。身体的虐待の子たちと比べて、信頼関係を築くのが難しい」
 精神科医である久留米大医学部の大江美佐里講師ら専門家によると、幼少期に身内から性虐待に遭うと人格形成が妨害され、対人関係がうまく築けなくなる。被害が長期間に及ぶこともあるため、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状も重くなり、うつ病なども併発しやすいという。法務省の有識者会議は8月、親子など地位を利用した性暴力については新たな罰則を設けるべきとの意見を示した。
 「家族なんかいらない」。投げやりなアイさんを見て、カズコさんは思う。「せめて安心できる家庭のイメージだけでも抱けるようにしてあげたい」
   ◇    ◇
 家族から性虐待を受けた被害者の多くは、その後も加害者と顔を合わせることになる。
 リカさん=仮名=は小学生のとき、自宅で実父から体を触られ、「気持ちよくしてくれ」と迫られた。そのトラウマから「健全な家族像」を描けず、結婚や出産はしないと決めて、40代まで生きてきた。
 母親には、被害は話していない。知れば、自殺してしまうかもしれないと思う。帰省のたび、「孫の顔が見たい」とあけすけに言われると怒りもわいてくる。
 約10年前。葛藤に耐えかね、父親を問い詰めた。泣いてわびられた。
 「私を育ててくれたのは事実だし、家族がバラバラになるのも嫌。他人が加害者ならば恨めばいいんだけど…」
 家族ゆえに、苦しみが複層的に覆いかぶさってくる。
◆性虐待の脳への影響
 福井大の友田明美教授(小児発達学)を中心とした研究によると、子どものころに性虐待を受けた女子大学生の脳は萎縮し、空間認知などをつかさどる「一次視覚野」の容積が平均して18%小さかった。特に11歳までに性虐待を受けた人の萎縮の割合がひどかったという。注意力や視覚的な記憶力の低下などが懸念されるという。友田教授は「残酷な体験のイメージを見ないように脳が適応したためではないか」と分析する。

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