最近ピヨピヨ多くない? へのコメント(No.44

  • No.44 ダイヤモンド(1カラット)

    25/10/03 21:08:23

    ぴよぴよの鳥

    ぴよぴよという鳥がいた。
    その名は、人が与えたものではなく、ただ鳴き声の響きが、そう呼ばせたのだった。

    春の村は、まだ夜明けの薄明かりのなかに沈んでいた。山裾にかかる霞が、桃色とも白ともつかぬ色に染まりはじめたころ、鳥の声が一度だけ、やわらかく空気を震わせた。

    それはひどく小さな声であった。けれど、その小ささが人の耳に残った。田畑を行き来する人々はふと立ち止まり、風のなかに耳を澄ませる。声の主は見えない。梢の影に潜むのか、雲に隠れるのか、誰にもわからなかった。

    村の年老いた女は、その声を聞くたびに遠い日を思い出した。若い頃、恋に落ちた夜も、春の雨の朝も、鳥は鳴いていた。彼女の胸の奥では、鳥の声と、失われた恋の記憶とが重なって、いつもひとつになっていた。

    少年にとっても、その声は母の匂いを思い出させた。乳を含んでいたときのぬくもり、幼い日に頬を寄せた記憶――それが、声といっしょに胸に戻ってくる。

    ぴよぴよの鳥は、一羽であったのか、群れであったのか、誰も確かめられなかった。
    ただ春になると、どこからともなく声が響いた。人はその声を聞いて、花や風や過ぎゆく季節と同じく、心を揺さぶられるのだった。

    村はやがて変わった。若者たちは街に去り、家は崩れ、畦道には草が伸びた。
    それでも春になると、声はかすかに続いた。

    旅人がひとり、廃れた村を通りがかり、夕暮れの風にその声を耳にした。
    旅人は足を止め、涙ぐんで立ち尽くした。彼の胸の奥にも、幼き日の影があり、その声に触れたとき、忘れていた夢がよみがえった。

    ぴよぴよという鳥がいた。
    その声を聞いた人はみな、失われたものを思い出し、そして胸の奥で、もう一度だけ生き直すのだった。

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