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- 22/07/20 14:59:28
安倍元首相襲撃の一部始終 参院選担当記者の眼前で起きたこと 4日たって実感、涙止まらず
2022/7/15 17:00 (JST)
(略)
開始から10分後、ガードレールのすぐ脇に1台の車が滑り込んできた。中から安倍氏が降り立つと、聴衆は一気に沸いた。その姿を一目見ようと、さらに大きな人だかりができる。私も急いでボイスレコーダーを取り出した。候補者である佐藤氏の演説が終わり、安倍氏にマイクが渡った。
「佐藤さんは総務省出身。でもただの官僚ではありません。スーパー官僚だったんです。霞が関も注目した。私も当時、総理大臣として彼に注目したんです」。急な応援にもかかわらず、入念に準備したかのようになめらかに語り出す。新型コロナウイルスの感染拡大を巡り、国に財政支援を働きかけてきたエピソードを披露し「彼は、できない理由を考えるのではなく―」。候補者の実績を持ち上げようとした、その時だった。
「ドーン!」。突然、花火を打ち上げたような大きな音が一帯に響き渡った。数秒の間を置いて、また「ドーン!」。破裂音が他の全ての音をかき消した。
▽震える手、デスクに「全員、ここに来てくれと言って」
「えー!」「何が起きたの?」。聴衆のどよめきに、立ち込める白煙。演説会場全体が騒然とする中で、私もとっさに何が起きたか分からなかった。
すぐ目の前で、安倍氏の周囲にいた警護の警察官らが、数メートル先にいた男に一斉に飛びかかった。男は逃げるそぶりも見せず、その場で取り押さえられた。しばらくそのやりとりに気を取られていたが、ふとガードレールの向こう側に目をやると、15メートルほど先にいた安倍氏が力なく崩れ落ちた。その表情は苦痛に顔をゆがめるでもなく、何か言葉を口にするでもなく、多くの聴衆を見つめたままの穏やかな様子だった。
安倍氏が倒れたのを目の当たりにし、ようやく何が起きたのか分かった。視界の隅に入っていた数秒前の場面を思い起こす。安倍氏が演説を始めてからまもなく、背後の車道に、どこからともなく男が現れた。白いマスクを着け、ショルダーバッグを提げていた。「車道を歩くなんて危ないな」。そう思っていると、安倍氏から数メートルのところで歩みを止め、無言で黒い物体を体の前に掲げた。今思えば、あれが銃だったのか。ごう音が響いたのはその直後。この男が安倍氏を撃ったのだ。
私はすぐさま、首に提げていたデジカメのスイッチを入れた。電源が入ったカメラのモニターには「カードがありません」の文字。撮影用のメモリーカードをパソコンに差しっぱなしにしていた。慌ててカードをパソコンから取り出すと、デジカメに入れ直し、無我夢中で撮影を始めた。
男は4人の警察官に抱きかかえられ、聴衆の少ないバスロータリーに連れて行かれた。よく見える位置に行こうと必死に身を乗り出したが、別の警察官に制止されたため、切り返して演説台の方に向かった。
安倍氏は台の脇で陣営スタッフらに囲まれ、あおむけに倒れていた。「看護師の方はいませんかー。お医者様はいませんかー」。何人ものスタッフが大きな声を張り上げ、助けを求めた。白いワイシャツの左胸は真っ赤に染まり、スタッフが体を揺すっても、目をつむったまま反応がない。容体がかなり厳しいことは、はた目にも明らかだった。デジカメを持つ右手が震えた。
リュックを置いていた位置まで戻り、普段原稿のやりとりをする大阪支社社会部に電話をかけた。「奈良市の大和西大寺駅で、11時半頃、大きな音がして、安倍総理が演説中に後ろから撃たれました。全員、ここに来てくれって言ってください」。丁寧に説明しているつもりなのに、電話越しのデスクの反応は鈍い。なんで伝わらないのか。いらだちが募った。隣で電話をかけていた新聞社の先輩記者は「安倍さんが撃たれたんですよ。何やってるんですか!」と怒鳴り散らしていた。
▽事実の重み実感、耳から離れない銃声音
デスクへの報告を終えると、再び現場に戻った。発生から10分後に救急車が到着。現場はブルーシートで囲われ、ストレッチャーに載せられた安倍氏は車内へ運び込まれた。その様子を記録しようとする私の前に、前日に電話で話した秘書が立ちはだかった。いつもは温和な秘書が血相を変えてこう言った。「ここは写真を撮るところではないでしょう。気持ちを考えて」。厳しい言葉が胸に刺さった。
>>1に続く
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