押谷仁教授「国民全員PCRをやっても新型コロナは制御できない」 検査の有用性とリスク

匿名

結城秀康

20/08/03 07:14:40

【独占】押谷仁教授が語る、PCR検査の有用性とリスクとの向き合い方

2020年7月31日(金)06時40分

積極的なPCR検査の必要性と現在の新宿区の状況を、厚生労働省クラスター対策班を率いてきた東北大学の押谷仁教授はどうみるか。ノンフィクションライターの石戸諭が押谷に聞いた(取材は7月6日、構成は本誌編集部)。

 ◇ ◇ ◇

──3月の段階で、押谷さんは日本はPCR検査数を抑えていると発言していた。その後は拡大したほうがいいと、方針を転換したかのように報じられていたが......。

転換したというようなことは全くない。メディアがPCR推進派と抑制派という二項対立をつくったことが問題だ。(略)だが、PCRは一気に増やすのではなく慎重に拡充しないといけない。

──それらのキットの精度の問題か。

まずPCRを急速に拡充すれば、必ずクオリティーが低下する。クオリティーを担保できないままやると、偽陽性、偽陰性が多く出る可能性がある。(※トピ主注:偽陽性…感染していないのに陽性が出る / 偽陰性…感染しているのに陰性が出る)
(略)重要なのはいかに精度の高い検査をできるかということ。

(略)みんな心配だからと検査センターに集まってくると、そこで3密状態になる。だが、「心配だから」と来る人の大半は感染していないわけだ。
今の東京も市中の感染リスクは非常に低い。感染リスクがあるのは、一部の盛り場や医療機関だ。
感染リスクの低い人たちを含め多くの人が医療機関や検査センターに殺到することは絶対に避けなければいけない。
また当初は陽性の人たちは軽症であっても法律上、限られた病床で隔離する必要があった。すると、入院調整をする保健所と医療現場に一気に負荷がかかる。

さらに、(略)今だと盛り場での感染を疑われるなど、いろいろなレッテルを貼られることにもつながりかねない。
その上、本来は感染していないのに感染リスクのあるエリアに入院させられるという問題がある。

──偽陽性が出る確率は、今の段階でどれくらいだと考えればいいのか。

そもそも今は、sensitivity(感度)とspecificity(特異度)を正確に知ることができない。
(編集部注:感度とは、あるウイルスを持つ人のうち検査で陽性と正しく判断される割合。特異度とは、あるウイルスを持たない人のうち検査で陰性と正しく判断される割合)

(略)感染しているかどうかを知る方法をPCRに頼っているなかでは、確実に感染している人と感染していない人を正確に分けることはできないことになる。

さまざまなデータから、少なくともPCRで正しく陽性と判断される確率は70%くらい。正しく陰性と判断される確率は、100%はあり得ないので99%としても、100人検査すると1人の偽陽性が出る。99.9%だったとしても、1000人検査すれば1人の偽陽性が出る。

――それでも、メディアの中にPCR検査絶対論は根強い。中には、片っ端からPCR検査をして陽性者はどんどん隔離せよという声もある。

おそらく、このウイルスの伝播パターンを理解していない人が全員をPCRせよ、と言っているのだろう。

これは西浦さんの最初のデータで示されたことだが、110人のうち80人くらい、80%近くの人は誰にも感染させていないことが分かっている。十数%は1人にしか感染させていない。ごく一部の数%の人だけ、例外的に非常に多くの人に感染させる。だからこのウイルスは広がっている。
つまり、大多数の誰にも感染させない人をいくら見つけても感染制御にはあまり意味がない。

──この数%が誰なのかは分からないということか。

現時点では正確には分かっていない。
日本のクラスターの61例を調べた結果、発症する前に感染させる人がいた。感染させるのは発症する1日前が最も多く、2日前もあった。最近、米サイエンス誌掲載の論文に、全体の45%程度が発症前に感染させていたというデータが出ていた。

症状がある人だけを検査していてもその前に感染させてしまう人がいるので、結局は無症状者を含め「国民全員PCR」のようなことをやらなければならなくなるが、たとえそれをやったとしても、正しく陽性と判断される確率は70%だ。
しかもこの感度70%というのは発症直後の話で、PCR陽性率が最も高くなるときの割合だ。感染から3日以内の潜伏期間だと、感染していてもPCRが陽性になる確率はほぼゼロだとのデータもある。全体の陽性率を見ると、おそらく感度はもっと下がる。

続き >>1 国民全員PCRをやっても制御できない

コメント

古トピの為、これ以上コメントできません

  • No.1 結城秀康

    20/08/03 07:15:25

    そうすると、国民全員PCRを毎日やらないといけなくなる。だが例えば国民全員PCRを毎日、2週間続けたとしても、今日陰性だった人が明日陽性になるかもしれず、その人は既に誰かにうつしているかもしれない。だから結局、国民全員PCRをやっても感染を制御できない。

    今われわれが考えているのは、いかにして感染している確率の高い人を選択的に検査していくかということ。軽症者も含めて感染している確率の高い人を見つけるということは非常に難しいが、例えばクラスターを形成した場にいた人たちは感染している確率の高い人ということになる。

    今その辺で歩いている人たちを、ちょっとPCRしませんかと、献血に協力してくださいというような形でやったとしても、これは感染している確率の非常に低い人たちに検査をするということになる。

    ──新宿区や新宿の保健所は、ホストクラブの関係者を広く濃厚接触者と見なし早期に検査する方法を取っている。これの評価を聞きたい。

    その方法は、ある程度感染している確率の高い人たちということになる。そのような人たちの間で陽性者を見つけることができれば、周りの感染連鎖を追うことができる。
    それがきちんとできたのが、2月に大阪のライブハウスで発生したクラスターだった。店名を公表して、感染リスクのある人たちの多くが名乗り出て、感染連鎖をほぼ突き止め、各県にまたがる全体像を浮き上がらせることができた。そうすることで、周辺の感染連鎖を断つことができた。

    いま東京では1日の新規感染者数が100人を超えているが、接客を伴う飲食店などで集団検診をやると、感染している確率が高い人たちなので陽性者が一気に増える。
    3月下旬には接客を伴う飲食店関連の感染者はほとんど見えていなかったが、今は検査への協力者が増えたことで見えてきているというのが、感染者数が増えていることの一因となっている。
    一方で、地域内外への感染連鎖の全体像が、ライブハウスで見えたようにはなかなか見えてこない。

    ──それは当然のことで、他人に明かしにくい秘密は誰しもある。信頼関係が築けない限り積極的に秘密を言いたがらない、ということだろう。

    まずその人たちに、検査を受けるインセンティブ(動機付け)を与えないといけない。
    今われわれに対して「歌舞伎町などのお店は閉めるべきだ」と言ってくる人がいるが、そこを閉めるとほかの繁華街にウイルスを拡散させてしまう可能性がある。感染リスクが高い人たちが別の地域に移動し、感染エリアが広がっていく。

    ──3密空間で飛沫が飛び散るというのが一番ハイリスクなのは間違いないとして、感染防止には人と人との距離を取れば十分と言えるのか。

    症状が出る前に感染させるケースがある以上、咳もくしゃみもしていない人たちが感染させていることになる。これまで考えてきたような飛沫感染ということでは説明できないような感染がかなりの程度で起きていると考えられるので、マスクを外して近距離で会話をするというような環境はできるだけ避けるべきだ。(以下略)

    [写真]日本のクラスター対策を主導してきた押谷(7月6日、都内) HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

    <2020年8月4日号「ルポ新宿歌舞伎町『夜の街』のリアル」特集より>
    https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/07/pcr-4_1.php

1件~1件 ( 全1件)

*コメント欄のパトロールでYahoo!ニュースのAIを使用しています

投稿するまえにもう一度確認

ママスタコミュニティはみんなで利用する共有の掲示板型コミュニティです。みんなが気持ちよく利用できる場にするためにご利用前には利用ルール・禁止事項をご確認いただき、投稿時には以下内容をもう一度ご確認ください。

上記すべてをご確認いただいた上で投稿してください。