- なんでも
- みなみのうお
- 18/10/05 01:38:51
■なぜ貴乃花親方までもが槍玉に挙げられ始めたか?
大相撲の横綱、日馬富士による暴行事件で、鳥取県警は年内に日馬富士を書類送検する方針を固めたようだ。日馬富士も、「拳とリモコンで殴った」などと、被害者である貴ノ岩の怪我の状態とも合致する内容の証言に変えたことで、刑事案件としては傷害罪としての証拠が固まってきているようだ。
傷害罪で司直の手に委ねられている案件なので、あとは検察がどう処理し、起訴された場合はどういう判断が下るのかを見守ればいい話である。この事件は傷害事件としては「ここで終わり」でいい。ところがまだ、連日ワイドショーを騒がせている。事件と関連して日本相撲協会という組織の問題が取り上げられ、貴ノ岩の師匠である貴乃花親方を「処分すべきだ」という声も出始めたからだ。
「なぜ、貴乃花親方が処分の対象になるのか」と疑問をお持ちの方のために、この件を組織経営論の観点から解説してみたい。ただし今回の事件は、一部情報が錯綜しているため、ここでは「もしこれが、あなたの会社で起きた事件だったらどうなのか」という切り口に置き換えて考えよう。ここからは「架空の会社」の話である。
ある社員が社内の同僚から暴行を受けて大けがをしたとする。暴行した方は大学の先輩、された方は後輩であり、お互いの間では「事件はなかったことにしよう」と話がついていた。しかし、翌日出社した部下のひどく顔を腫らした様子を見た執行役員が、「それはおかしい。ちゃんと警察に被害届を出しなさい」と指導して、眼窩底骨折の診断書とともに被害届を出させた。
ところで暴行した先輩社員は、会社にとってキーパーソンだった。普通の会社だと類似例を挙げにくいのだが、たとえばゲーム業界を代表するゲームクリエイターだったとか、人工知能開発の中心人物だったとか、中国政府の要人の娘婿だったとか、会社の業績を左右する特別な存在であったと想定してみよう。
そして、その会社にとってかけがえのない重要人物が傷害罪で逮捕される(日馬富士の場合は逮捕を免れているが、一般人の場合には逮捕事案になるので、そう想定させていただく)という情報が、警察経由で経営陣の知るところとなる。
このままでは、会社の業績が大きく下がることになりそうだ。被害届を出させた執行役員は営業本部長だったとしよう。そこで経営陣の中では、「営業成績が下がるようなことをしでかした営業本部長にお灸をすえてやらなければいけない」という話になる。日馬富士の暴行事件を普通の会社で起きた事件に置き換えると、だいたいそういうことになる。
さて、それでは営業本部長はどうなるのか。読者の中には驚く人もいるかもしれないが、彼はまず間違いなく、会社から正当な手続きで責任を追及されることになる。理由は部下に被害届を出させたことではなく、その後、上司(基本的には社長ないし上席役員)に迅速に報告をしなかったことだ。
ことは刑事事件であり、重大犯罪なので、部下に被害届を出させること自体は処分の理由にはならない。少なくとも建前上は、である。問題は、とはいえ組織の一員として、会社の業績に大きな影響があることが自明である行動をとったにもかかわらず、それを直ちに上に報告しなかったことだ。
その情報を警察から知らされ、経営陣の打ち手が後手に回ってしまった。そうこうしているうちに、マスコミに話が流れて、会社の信用に傷がついてしまった。報告がもっと早ければ、せめてマスコミに嗅ぎつけられる前に、会社から世間に向けて何らかの発表をすることもできたかもしれない。だから営業本部長は処分されてしかるべき、という話になる。
その結果、「一般の会社であれば」という想定で言うと、営業本部長には「報告義務を怠った」という名目で、けん責と減給という比較的軽い処分が下されるだろう。
■部下に被害届を出させた上司はとりあえず軽い処分、次の人事で左遷?
一方、逮捕された先輩社員のほうはどうか。彼は、仮に起訴されて執行猶予つきの有罪になったとする。傷害罪での逮捕なら、おそらく一般的な会社の就業規則にある「犯罪行為」に該当することで、懲戒解雇ないしは諭旨退職になる可能性はある。
が、この処分は就業規則に則った形をとりさえすれば、最終決定は経営者が行うことができる。経営者が会社への貢献や本人の反省などを考慮して、情状酌量を加えれば、重たい方から3番目の「(3ヵ月程度の)停職」という処分に落ち着く可能性はある。なにしろ先輩社員は「会社の業績を左右するほどの社員」なのだから。
>>1に続く
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