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- 18/02/02 19:51:05
奄美大島沖で大規模な石油流出事故 海洋生態系への影響は?
勝川俊雄 | 東京海洋大学 准教授、海の幸を未来に残す会 理事
2/2(金) 6:58
1月14日に、イランのタンカーが奄美大島の西300kmで沈没し、過去最悪ともいえる大量の軽質原油コンデンセートが流出したとみられています。流出したコンデンセートが日本沿岸に流れてくるという英国の研究機関の予測がSNS上で拡散して、ネット上では不安の声が上がっています。
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中国交通運輸省などによると、タンカー「SANCHI」(8万5000トン)はイランの海運会社の所有で軽質原油「コンデンセート」14万トンをイランから韓国に運んでいた。6日夜に長江河口沖300キロで中国の貨物船と衝突。炎上しながら日本に向かって漂流し、14日に奄美大島(鹿児島県)の西約300キロの地点で火勢が強くなり、沈没した。乗組員のイラン人とバングラデシュ人32人のうち、3人は遺体で発見され、残りも生存は絶望視されている。
出典:毎日新聞
SNSなどで良く引用されるのがこちらのロイターの記事( https://www.reuters.com/article/us-china-shipping-spill/how-sanchis-spill-could-spread-idUSKBN1FF1AK )です。出だしから、「ここ何十年で最悪の石油流出が広がっている(The worst tanker oil spill in decades is unfolding)」とセンセーショナルです。このロイターの記事をもとに、「もうじき日本の海が死ぬ」などと危機を訴えるサイトが登場し、SNS上で盛んに拡散されています。この事故については、全国紙ではほとんど情報がありません。私が調べた範囲では、毎日新聞の18日の記事を最後に、全国紙はどこも取り上げていないようです。国内での確かなソースの情報がないことから、ネットで危機を訴える情報が拡散するという、原発事故後と同じ構図になっています。では、実際のところどうなのでしょうか。
現時点での科学的な知見を整理するのに、学術雑誌ネイチャーのこちらの記事が参考になります。
Unique Oil Spill in East China Sea Frustrates Scientists( https://www.nature.com/articles/d41586-018-00976-9 )
結論から言うと、不確実性が大きく、事故の影響は良くわからない部分が多い。でも、長期的・大規模な影響についてはあまり心配無さそうです。
◆影響は短期的
今回流出したのは、コンデンセートと呼ばれる揮発性のオイルです。コンデンセートは水よりも軽いために海水表面に浮きます。コンデンセートは重油などと異なり、水中で集積して油膜をつくりらないので、海の表面で拡散しながら、大気に蒸発していくことになります。コンデンセートは希釈されながら、数週間から数ヶ月ほどで分解されます。本州に到着する頃には、蒸発、希釈、分解が進んで、密度は低くなっていることでしょう。海洋微生物・毒物学者である、Louisiana State University のRalph Portier氏は、「今回の事故は、短期的な毒性が最大の関心事となる最初の石油流出(This may be one of the first spills where short-term toxicity is of most concern.)」と述べています。
ただ、これほど大量のコンデンセートが海洋に放出されたことはないので、その正確な影響については誰も分かりません。コンデンセートが海鳥やプランクトンなどに毒性を持つので、短期的には何らかの影響はあるでしょう。ただ、長期的・大規模な影響については、余り心配しなくても良さそうです。
流出石油が生態系に与える影響については、こちらを参考にしてください。
流出石油が環境に及ぼす影響( http://www.nite.go.jp/nbrc/industry/bioreme2009/knowledge/accident/accident_2.html )
【続く】
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