- ニュース全般
- 山の日
- 17/08/24 09:39:41
【依存~溺れるネット世界(4)】毎日10時間プレイ 「サドンアタック」での称賛に喜び 親への“報復”で殻に閉じこもり、高専や大学中退
2017年8月24日 7時7分 産経新聞
facebookで送る
twitterで送る
LINEで送る
依存症は幼少期、適切な愛情を両親から受けなかったことから引き起こされるともいわれる。
安らぐ環境を得られず、親の顔色ばかりをうかがい、感情を押し殺した「人形」のようになることで、さらに自分の感情が出せなくなる。だが、その反動でやがて耐え難い寂しさを感じ、爆発したり何かに頼ったりするようになる。
爆発は「一人暮らしを」というちっぽけは問題から
高等専門学校3年のころからインターネットの世界に溺れ始めた桂翔太(23)=仮名=の場合もそれと重なる。
幼少期に桂の両親の関係はぎくしゃくしていた。言い争いは絶えず、小学1年の時には「もう無理だ」と母が包丁を持っている場面も目撃した。「どっちについていくんだ」と迫られ、途方に暮れたこともあった。自然と顔色をうかがう生活を送り、「人形」に徹して親の言うがままの人生を送ってきた。そして“ちっぽけ”な「1人暮らし」という問題で爆発した。
桂は高専入学後から始まった寮生活になじめず、アパートでの1人暮らしを両親に再三訴えた。2年になると相部屋から1人部屋になって、環境は少しは改善したが、両隣の先輩が夜中にピアノを弾いたり歌ったりして耐えられなかった。
だが、両親は「常識的にだめ」「我慢しなさい」として、まったく取り合ってくれず、首を縦に振ることはなかった。
留年かかったテスト当日に広島に家出
小学校から、親の期待に応えようと勉強に励み、すべて親の勧める学校に進んだ。「この学校に行けば将来も安泰」とも言われた。
親の喜んでいる顔を見るために努力をしてきたのに、なぜ自分の気持ちを受け止めてくれないのか。
両親への不満ばかりが募り、高3で完全に気力をなくした。学校をさぼって映画に行ったり、あてもなく東京に行ったりした。成績は落ちた。テストでは名前すら書かなかった。留年がかかったテストの当日には家出のように広島に向かった。
変わり果てた息子に、両親は焦ったが、それを見ても何も感じず会話を完全に遮断した。「今から考えればアホらしいことだが、自分の人生を失敗させることが報復だった」
逃げついた先が、対戦型のオンラインゲーム「サドンアタック」だった。仮想空間上で数人単位でチームを組み、銃器で相手を倒していくのだが、最初は難しく、なかなか思うようにいかず、イライラも感じた。ただ、少しうまくなるとネット上で知り合った仲間から称賛された。
仲間から必要とされる存在
「仲間から必要とされることはうれしく、自分の中にあいた穴を満たしてくれるように感じた」
サドンアタックは年数回行われる公式大会で5千人以上が参加するとされる。家族の期待に応えてきた桂の人生は、そうしたゲーム仲間の期待に応えることにすり替わった。
念願だった1人暮らしが認められたのは、留年が決まってから。しかし、「何を今さら」と親には感謝ではなく反発を抱いた。部屋にこもり、夕方から朝方まで毎日10時間ほどふらふらになるまでゲームに没頭。体を心配して、横に座って「翔ちゃん。大丈夫」と声を掛けてくれた母も無視してゲームを続けた。
ふとわれに返り、むなしさを感じることもあったが、母が涙をためて顔をはたいてきても痛みは感じず「こうなったのは当然の報い」としか思わなかった。
過度な期待を課す親VS「良い子」の顔しかできなくなった子供
結局、高専を退学。大検を取って大学に進んだが最後はパチンコにものめり込んで消費者金融に手を付け大学も退学した。
ゲームで支払いがかさむことより、仲間に頼られることのほうがうれしく、ギャンブルや薬物のように抜け出せなくなるような恐怖感もなかった。だが、桂がはまったのは「期待に応えれば褒めてくれる、認めてくれる世界」がそこにあると感じたからだ。
親の過度な期待と、「良い子」の顔しかできなくなった子供。社会の歪(ゆが)んだ構造もまた、仮想空間に溺れる人を生み出している。(敬称略)
- 0 いいね