• No.1 トロピカルフルーツ

    16/03/03 18:26:24

    ●わが子に寄り添えない
    「どこからを高学歴と呼ぶかはともかく、大卒の親の子育ては難しい」と話すのは、「子育て科学アクシス」を主宰する小児心理医の成田奈緒子さん(文教大学教育学部特別支援教育専修教授)。小児心理外来で長年親子の悩みを聞いてきたが、患者の多くが高学歴親の家庭だ。
     自分ができたことはわが子もできるという根拠のない思い込みをもち、子が別の人格であることを認識できない。自分のメンツを繕うことに執心するあまり、わが子に寄り添えていないケースが目立つ。
    「高学歴は弁が立つ人が多いため自分のしゃべる時間がつい長くなり、子の意見を聞いていません。子どもの自発性、積極性が強化されづらい。そこが鍛えられない彼らは自発的に動かないので、親はさらに焦る。悪循環なのです」(成田さん)
     都内在住で40代のハルミさんの悩みは、子育てではなく別れた夫だ。医師の元夫(50代)は、勉強が苦手な中学3年の次男の実情を受け止められない。成績表は2と3が半分ずつで模試の偏差値40台の息子に、偏差値65の高校へ行けと言う。
    「せめてM大の附属校へ行け。授業を真面目に聞いていれば、ある程度の成績が取れるはずだ。いい高校に行って一流大学に入らなくては就職できないぞ」
     ちぐはぐな説教をする元夫はK大医学部卒。附属中学時代から医者を目指し、ひたすら勉強だけをやり続け医者になった。
    「彼は自分ができるから、息子もできると思い込んでいる。というか、世間が狭いので自分と同程度の人しか知らない。誰でも勉強すればできるようになると。そのうえ学業成績以外の価値観でわが子を見られない。次男はやさしく気が利いて友達も多いのに」(ハルミさん)
     成績のいい高校生の長男は「お父さんは勉強はできても賢くない」と諦め顔だという。「子どもたちのほうが、父親よりもはるかに大人なんです」とハルミさんはため息を漏らす。
     自分から学ぶ力を育むことをモットーにする丹誠塾(東京都西東京市)の塾長を務める渡邊憲土さん(43)は、塾生の母親が「私も夫も勉強ができたのに、この子がどうしてできないのか不思議でたまらない」と漏らすのを聞いた。夫婦とも名門大学を卒業していた。
    「親御さんは、頑張れば何でもできると言う。でも、そうじゃないときもある。そこを認めてあげないと、本来ある力をつぶしてしまう場合もある」(渡邊さん)

    続く

  • No.2 トロピカルフルーツ

    16/03/03 18:29:37

    >>1続き

    ●スキンシップを怠ると

     一方で、高学歴の親は学歴のみにこだわるわけではない。
     30代までマスコミ関係で働き、最近まで専業主婦だったミサさん(40代パート勤務)は、私大トップのK大に入学した長男をもつ。

    野球部に所属した高校までは何とも思わなかったのに、大学に入った途端、長男に不満を抱くように。同時に母子のケンカが絶えなくなった。

     長男はサークルには入らず、バイトもしない。大学生なのに夫より帰宅が早い。友達もいないし、当然彼女もいない。要するに「まったくイケてない」(ミサさん)。

    彼女が抱く理想の息子像には程遠いのだ。

    「コミュニケーション能力が低く、生きる力が弱いと感じる。大学なんてK大より下の私が卒業したレベルでOK。それよりも、活発で生き生きした子になってほしかった」

     はたからはないものねだりにも見えるが、ミサさん自身、密かに反省もしている。

    「私が何でも全部言っちゃうから、もう親の言う通りにしたくないのかも。自分の足で踏みだせないんだと思う」

     視野が広がるから留学しろ。社会勉強になるからバイトしろ。友達ができるからサークルに入れ。どれも正解だ。だが、前出の成田さんはこう言う。

    「正論を言い過ぎるのも高学歴親の特徴。言葉で責めてスキンシップを怠ると、良好な関係を築きづらい」

     それをミサさんに伝えると、ぽつりとこう漏らした。

    「そういえば、次男は耳かきをせがむけど長男は来ない。中学生くらいから触っていないかも」

    続く

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  • No.3 トロピカルフルーツ

    16/03/03 18:32:13

    >>2続き

    ●親は自分に目を向けて

     家族のありように変化もある。成田さんはここ10年ほどで、成人の患者が増えたと感じている。教育実習の際、突然子どもたちの前で話ができなくなるなど対人恐怖の症状が出た女子大生。高校まで問題がなかったのに大学で不登校やひきこもりになるケース。しかも、そういった患者のほとんどが、絵に描いたような「ハッピーな家庭」で育っている。争いごとを嫌い、多少違和感があっても意見しない。

    「一番の病理はいい子すぎること。子どもに感情を表出させる機会を与えていないから、コミュニケーション脳といわれる前頭葉を使って行動を起こす経験を積めないのです」(成田さん)

     背景にあるのは親たちが「いい子を育てる=自分の評価」ととらえる風潮だ。特に高学歴夫をもつ専業主婦にその傾向が強い。子どもは親の意向を敏感に感じ取り、本来なら「もう、いい子はやめた!」とばかりに荒れる思春期を自我封印で静かに過ごす。あれはダメ、これもダメと何でも管理する空気が「教育現場だけでなく社会全体に強いのも影響している」(同)

     では、どうすればいいのか。成田さんに高学歴親へのアドバイスをしてもらった。会話やスキンシップの重要性が説かれているため、ワーキングマザーは「子どもにかかわる時間が短いからダメだ」と思いがちだが、実は働く母のほうが子育てにはつまずかないという。

    「圧倒的に時間がないので過度な干渉をせずに済む。保育園や学童保育で大人の目が入るし、その集団の中で子どもはさまざまな経験を積む。専業主婦の方には、趣味を持つなど、とにかくわが子よりも自分に目を向けてと話します」(成田さん)
     ケンカ上等。放任万歳。親子で思いをぶつけあい、学歴よりも大事なものを見つけたい。
    (文中カタカナ名はすべて仮名)

    続く

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