• No.4 永遠の愛

    25/10/09 01:05:13

    女は微笑みをたたへて言ふ。
    「むかしの月を、思うておるのよ。
     いまはその月も、あの人も、遠くなりにけれど。」

    娘はあどけなく首をかしげ、
    「でも、お月さまは、また来るでしょう?」

    そのことばに、女の胸、しばし静まりて、
    涙のうちに微笑をこぼしたまふ。
    ――そう、月は巡る。
    たとえ人が変はり、時が過ぎても、
    月はまた、同じ夜空に戻りくる。

    やがて娘を抱きて寝所に送り、
    ひとり残りて筆をとる。
    その夜の言の葉を、
    いつか見ぬ人へと、風に託すやうにして書きつけたまふ。

    「もしこの文を読む人のあらば、
    秋の夜の心のさびしさを、
    そなたの胸にも思ひてほしき。
    人の世の情けも、月の光も、
    うつろふほどにこそ、美しかるべけれ。」

    書き終へて、文を灯の下に置き、
    女は静かに目をとじる。
    夢のなかに、若き日の面影あらはれて、
    その人の声、風の音にまじりて聞こゆるやうなり。

    ――「風すさぶ秋の野辺にて、われ待たむ。」

    うつつとも夢とも知れぬまま、
    やがて夜は明けて、東の空あかねさし、
    鶏の声かすかに聞こえけり。

    障子の外、朝露に濡れた庭の薄(すすき)きらめきて、
    その光の中に、夜の思ひの余韻が
    まだ淡く漂ひける――。

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