- なんでも
- 宇喜多秀家
- 20/12/19 10:26:56
吉川さんは私の友達なんだけど、旦那さんが不倫して家族を残して家出してしまい、吉川さんも町にられなくなって、引っ越したと聞いてた。携帯電話の番号も変わっていて、連絡も取れなかった。「どうしてここに?」とも聞けずにいたら、吉川さんの方から「戻ってきたの。やっぱり住み慣れた町が良くて。またよろしくね」と教えてくれて、私は「もちろん」と言った。それから、朝市で売ってるつきたてのお餅を買って、無料のお茶をもらって、ヒノキのベンチに座って3人で食べた。私と息子はきなこ餅だったんだけど、吉川さんはウグイス餡が乗ったお餅を食べていて、美味しそうだった。たった半年だけど、吉川さんは随分痩せていて、髪は白髪だらけで、苦労したんだろうな、と思った。温かくて甘いお餅を食べてしゃべると、みんな息が白かった。吉川さんと別れるとき、新しい電話番号を聞いておこうと思ったけど、聞けなくて「また会える?」と聞いたら「うん。またね」と言ってた。その後、川沿いの田んぼの畦道を歩いていたら、「ママ、鶴がいるよ」と言われて、遠くの田んぼを見たら、白い大きな鳥がいた。「あれは鶴じゃなくて白サギという鳥だよ」と教えてあげたけど、よく見たら本当に鶴だった。1羽だけ鶴がいるのは本当に珍しい。息子と2人で霜の降りた畦道をしゃりしゃりと歩いた。私はあまり霜が降りてない場所を選んで歩いてたんだけど、息子はわざと凍ったところを歩いてる。それで滑って転びそうになって、咄嗟に手をつないだら、息子は嬉しそうに笑ってた。そのまま手をつないで歩いていたら、神社の前に差し掛かった。殿方との恋に破れて入水自殺した姫が美しい鶴の姿になって舞い戻ったという伝説がある神社。その鳥居の前を過ぎて舗装道路に出たところで息子が私に言った。「ママ、さっき誰としゃべってたの?」「さっきっていつ?」「朝市行ったとき」「吉川さんだよ」「誰もいなかったよ?」「お餅食べてるときだよ?」「うん。誰もいなかった」「ママは誰としゃべってたの?」「1人で遠くを見てしゃべってたよ」。さっきの鶴が吉川さんだったんだなぁ、と思った。お土産に買ったウグイス餡のお餅は仏壇にお供えした。
- 0 いいね