• No.1 天禄

    20/06/08 20:43:52

    「見なければ」という問題ではない


    伊藤さんは、当時の心境をこう語る。

    「スルーすればいい、見なければいいんだと人にも言われ、自分にも言い聞かせ続けてきました。それに当時は(誹謗中傷に)向き合うだけのエネルギーがなくて……。何か反論することで、聞かれたくない言葉がまた広がってしまう。そのことがすごく怖かった」

    しかし、嫌がらせや誹謗中傷はエスカレートした。自分が行った場所の写真と性器の写真が同時に送りつけられたこともあり、身の危険を感じたという。

    伊藤さんの心を動かしたのは、痴漢被害に遭ったという高校生との対話だった。その高校生は、痴漢被害者に対するネットの中傷コメントを見たことで、親にも自身の被害を言い出せなかった。

    「『詩織さんへのコメントを見たら、セカンドレイプ的な発言が多く傷ついた。このような言葉を無くすにはどうしたらいいのでしょう?』と言われて。その時から『もし私と同じような性暴力被害者が、あの書き込みを見たら』と考えるようになりました。自分が見なければ良い、という問題ではないと気づいたんです」

    伊藤さんがこうしたSNS上での誹謗中傷、攻撃に対して法的措置を取るために具体的に動き出したのは、2020年1月ごろ。いよいよ提訴に踏み切ろうというタイミングの5月に、木村花さんの死を知った。

    「ちょうど木村花さんが亡くなる少し前に自分も、『ああ、もうダメかもしれない』と感じてしまったことがあって……。あのニュースはすごくショックだったし、私にとって他人事ではない、と思いました」
    >>2

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