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- 正嘉
- 20/03/01 18:39:29
播磨灘などでイカナゴのシンコ漁が29日、解禁された。不漁との予想通り初日の水揚げは振るわず、「漁獲ゼロ」の漁港もあり、関係者を驚かせた。一方で、商店街ではくぎ煮作りに情熱を燃やす買い物客が、わずかなシンコを求め長蛇の列に。店先でキラキラと輝くシンコは一瞬でなくなり、買えた人、買えなかった人で悲喜こもごも。「春告魚」に沸いた港町を取材した。
林崎漁港(兵庫県明石市林3)では、早朝から11隻の船が出港。時折、雨がぱらつく中、取れたイカナゴを入れる籠が岸壁に重ねて置かれている。船は帰って来ておらず、港は静かなままだ。
「毎年、シンコがどれくらい成長しているんかを見るのが楽しみなんや」。10年以上、解禁日の漁港に来ている男性(73)が船影のない海をじっと見つめる。
午前9時すぎ、突然、籠が片付けられ始める。集まった報道関係者らに、林崎漁協の職員が「今日の水揚げはありません」と告げた。仲買人たちが急いで携帯電話を取り出し、ほかの漁港の情報を集め始めた。
「ここで40年漁師をやっているが、初日に漁獲ゼロなんて記憶にない」。同漁協の田沼政男組合長(66)が肩を落とす。
隣の明石浦漁協(岬町)の水揚げは約450キロ。1籠(25キロ)が7万円前後で取引された。今年は暖冬で水温が下がらず、イカナゴと同じプランクトンを食べるイワシシラスが越冬。1割ほどシラスが混入していたという。
その頃、魚の棚商店街(本町1)では、鮮魚店前に買い物客が長い列を作り、イカナゴの到着を今か今かと待ちわびていた。
鮮魚店「松庄」で午前10時半、店主の松谷佳邦さん(57)が「今から2籠だけ入ります」と客に告げると、拍手がわき起こった。運び込まれたイカナゴは次々と売れていく。商店街での価格は1キロ4千円前後。
7時半から並んでいた明石市の主婦(69)は、手に入れたシンコを大事そうに抱えながら「やっと買えた」と満面の笑み。「早速、家で炊くわ」と帰路を急いだ。
中には、並んだのに買えず手ぶらで帰る人も。鮮魚店で「次の入荷はいつ」「いくらぐらいするの」と尋ねていた主婦(86)=神戸市西区=は「今日は天気が悪いから、ちゃんと入荷されたかを確認にきた。去年はなんとか4キロ買えたけど、今年は無理そうね」と不安そう。
鮮魚店「松庄」の松谷さんは「新型コロナウイルスやなんや言うてるけど、春の風物詩を楽しむぐらいの心の余裕を持たなあかん。水揚げは少なかったけど、港町にちゃんと春は来たで」と笑った。(長沢伸一、小西隆久)
神戸市内の商店街や百貨店にも29日、取れたてのシンコが並んだ。近年続く不漁の影響で値上がりしても、常連客らは列をなして「春告魚」を買い求めた。
“神戸の台所”で親しまれる東山商店街の明石屋丸徳(同市兵庫区東山町1)には、午前8時ごろから常連客が列を作った。約3時間後、店員が「イカナゴ並びます。1キロ3800円」と伝えると、「良かった」「(思っていたより)安い」と歓声が上がった。
淡路島の岩屋港で取れた銀色のシンコが並ぶと、通行人も立ち止まって列に加わった。毎年買うという会社員の女性(68)=同市中央区=は「1キロ5千円は覚悟していた。イカナゴを炊かないと、春が来ないようで落ち着かない」と早足に家路についた。
同店の鶴谷伸之社長(65)は「予約してくれる人のためにも、シラスやちりめんじゃこが交ざらない、質の高いイカナゴを売りたい」と話した。
垂水廉売市場の木下水産(同市垂水区神田町)には午前5時から買い物客が集まり始め、ピーク時には100人近くの列となった。
そごう西神店(同市西区糀台5)でもイカナゴの販売会があり、午前10時の開店前から約40人が列をなした。淡路沖で取れたシンコ50キロが並び、昨年より千円高い1パック(1キロ)4980円で売り出されたが、わずか8分で完売となった。
今年は新型コロナウイルス感染への懸念から、調理場でパックして手渡す方法に変更され、「1人1パックまで」のルールも設けられた。約30年前から買いに来ている男性(80)=同市西区=は「値上がりしたけど、身内に贈ると喜ばれるから、やめられないねえ」と話した。
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