急上昇
貞享
「僕すいません、お酒飲めないんですよ。肝臓ないから(笑)」
琉月さんは慣れた手つきでグラスにお茶を注ぎ、笑顔で乾杯をするものの、身体には腹部から胸にかけて巨大な十文字の傷が残っているという。記者も確認させてもらったが、軽快なトークが信じられないような凄惨な事件を物語る傷跡だった。
「ゆのちゃん(高岡容疑者)とは最初は僕が去年の10月くらいに彼女の勤めるガールズバーに遊びに行っていて、その後、今年3月くらいから彼女が僕のお店によく来てくれるようになったんです。平均週3回くらい。月に100万円近くつかってくれて、とてもいいお客さんでした。”彼女”ではないんです」
「ネットでは、僕が彼女と同棲していたような書き込みも多かったのですが、僕は寮に住んでいました。店が終わってからはアフターとして、映画や猫カフェ、彼女の家にも行くことはありました。『付き合ってほしい』と言われましたが、『ホストだから付き合えない』と話していました」
あくまでホストと客の関係だったと話す琉月さん。だが、高岡容疑者とは肉体関係があったという。
「事件があった日は何もないんです。15時くらいにお店が終わって、『家に来て』と言われていたので彼女の家に行きました。ゆのちゃんはいつも通りの感じだったので、『先に寝るね』とパンツ一丁で寝ました。30分くらい経って、お腹のあたりが熱くて、痛くて、目が覚めると包丁がお腹に刺さっていて、彼女が僕の上に馬乗りになっていて、『一緒に死のう』って……」
「パニックになり、あのときのことはあまり覚えてません。『一緒に死のう』『私のこと好き?』って聞かれて、好きと言わないと怖いから、『好き』と答えました。本当のところ、そのときの感情は今でもよくわからなくて、僕も人間だから、あれだけ尽くしてくれて情もあったし、男なんで女の子としてそういう感情もあった。
でも助かりたいという思いが強かったんだと思います。包丁を抜いて、無我夢中で部屋を出て、エレベーターを降りて(マンションの)エントランスで倒れました。自分でも『よくそこまで行けたなー』と思います。あとでお巡りさんから聞いたのですが、ゆのちゃんの部屋はもちろん、エレベーターの中も血の海だったそうです。『救急車呼んで』と叫んだことも覚えています」
「病院で目が覚めたときは物凄く身体が痛かった。刺されたことが凄いショックで誰とも話したくなくて、カウンセリングも受けました。病院の窓からゆのちゃんが部屋に入って来る夢を何度か見て、怖くなり部屋を替えてもらいました」
傷ついた琉月さんを支えたのは店の仲間たちだったという。記者にホスト仲間への感謝の思いを口にした琉月さんは、一瞬声を詰まらせ、涙ぐんだ。
「店の仲間が入院中、毎日面会に来てくれたんです。肝臓とった(摘出した)こと告げると、『俺がお前の肝臓になるから』って。今でも僕がお酒が飲めないので仲間が酒を代わりに飲んでくれます。ここが僕の居場所なんだと思って、ホストを続けることにしました。今ではお客さんも戻ってきてくれて、何とかお店でやれてます」
公判を前日に控えた琉月さんだが、意外にも高岡容疑者を恨む気持ちはないという。
「あの家(事件現場)は、ゆのちゃんには同棲を迫られていたとき、『ホストを辞めたら一緒に住もう』と話していて、それで彼女が借りた家なんです。それから『ホストを辞めて欲しい』と何度か言われていて、5月の初めにも『辞めてくれないと死ぬ』って言われて、屋上から飛び降りようとしたことがありました。
これも後で知ったことですが、彼女は僕を支えるために風俗で働いて(ホスト店での)売り上げをつくってくれていた。彼女の気持ちに対して、僕の態度は適当でした。僕、本当にクズなんですよ。LINEの返事も返さないし、電話で約束してもダルくなったらブッチしちゃうし、将来の夢はヒモですし……クズですよね」
高岡容疑者の減刑も望んでいる。
「こうして生きていられたし、いいかなって。ゆのちゃんから一度謝罪の手紙をいただきました。今後、罪を償うと書いてありました。彼女も若いのに名前と顔が出てこれから大変だと思いますし、彼女のことは許そうと思います」
法廷で琉月さんをみた高岡容疑者は何を思ったのだろうか。
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