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『男にはわかる羽生結弦のウマ味』
アイドルという概念がいささか理屈っぽくなった感のある昨今、久しぶりに表れた逸材、羽生結弦。手の付けられない強さはもちろんのこと、手に負えないほどの縦横無尽さ。そしてそれを許容し、有り難がり、「もっと!もっと!」と貪る世の中。まさにアイドル文脈の理想型と言えるでしょう。
羽生クンのスゴさは、例えば『転倒したシーン』を『立ち上がるシーン』に変換させてしまう“ヒロイン力”です。『お黙りなさい!転んだのではありません!これから立ち上がるところなのです!』と声高らかに凄まれることで、観ている側の感情も「勝て!」から「負けないで!ゆづぅ!」になる。女優なんです。彼は。
さらに彼は、ドラマティックさを煽る反射神経においても天才的です。高熱でふらつくステップも、癒えぬ傷口に滲む血も、異様なまでの謙虚でストイックな姿勢も、たとえそれが本能だろうと、緻密な計算と綿密なシミュレーションの賜物だろうと、 彼ほどぬかりなく“ひとつ足してくる”人はそうはいません。ホント痺れます。「またやってるわ」と眉をひそめながらもお漏らししてしまうとはまさにこのこと。アイドルってのは常に紙一重。だから儚いの。
でも私、見てしまったんです。羽生クンの紙一重のあっち側を。それは昨年末の『紅白歌合戦』。その年を飾った著名人たちが審査員として連なる中、いちばんの目玉として彼はいました。紅白らしく袴姿で……。 貴重なお姿?いや、どこか見てはいけないものを見てしまったようなざわめきに襲われました。顔が小さ過ぎる上に、肩が華奢だからでしょうか。ふたつ隣の長澤まさみの方がよっぽど男らしく着こなすのではと思うほどの違和感。えっ指人形? 同時に「遂にこの時が来た!」という歓喜を覚えました。「これぞアイドル鑑賞の醍醐味だ!」と。
その後も眠そうな顔を抜かれ、ダース・ベイダーとの詰めの甘い絡みをし、拙いマイクの持ち方で『花は咲く』を唄うなど、垂涎の決定的シーンが目白押し。極めつきは『女々しくて』に合わせて両手を振る羽生クン。さすがは絶対王者です。誰にも真似できない独特な手首関節の動きをされています。あれ?もしかしてリズム感悪い? あっ、言っちゃった。
陸に上がった人魚が、ただの異様な生き物だったように、氷を降りた羽生クンは、それはそれは隙だらけの田舎男子だった……。
あれ以来、私の中で羽生結弦という男が、さらに愛くるしい存在になったことは言うまでもありません。
彼の中にある苦みとしょっぱさを知り、ファンとしてひとつオトナになった気分です。
どうか世の男性たちにももっと羽生結弦を舐め回してしゃぶりついて頂き、その極上のウマ味に胸ヤケを起こしてほしいと願うばかりです。
週刊朝日『アイドルを性(さが)せ!』より
文:ミッツ・マングローブ- 1
19/04/20 23:52:28