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- 18/12/26 13:04:28
2018年12月25日(火)16時40分
内村コースケ Newsweek 日本語版
<東京・港区南青山の児童相談所建設反対派住民は、典型的なNIMBY(ニンビー)だ。北米などでは、「必要性は認めるが、自分の家の近くには建ててほしくない」と、公共施設や高層住宅の建設に反対する住民やその反対運動を、"Not In My Back Yard"(我が家の裏庭には御免)の頭文字を取ってNIMBYと呼ぶ。一方、今、ニューヨークやカリフォルニアの「意識高い系」の住民の間では、そのアンチテーゼであるYIMBY(インビー=Yes In My Back Yard)運動が盛り上がっている。集合住宅などの建設を促進して住宅不足や家賃高騰を解消するのが主な目的だが、推進派の口からは歓迎する施設の一つとして「児童福祉施設」もはっきりと挙げられている>
|あらゆる人々を歓迎する町であるために
YIMBY運動は、2006年にカナダのトロントで住民運動として、スウェーデンの都市部で政治運動として始まったのが初期の事例で、近年、特に住宅不足や家賃の高騰が著しい米ニューヨークやカリフォルニア州で盛り上がっている。カリフォリニア州の政治・社会問題を扱うニュースサイト『Capitol Weekly』は、折しも南青山の児相建設に反対する住民の声が日本のマスメディアで広く報じられ始めた頃、YIMBY推進を訴える社説を掲載している。
『これからはNIMBYではなくYIMBYだ』と題した12/20付の社説は、YIMBYは「時代遅れのNIMBYへのアンチテーゼ」だと表現する。NIMBYは「自分たちの目に見えない所で行われる開発には賛成する」点で、闇雲な反対運動よりもむしろ偽善的で悪質だと捉える市民が近年増えているようだ。「YIMBYは反対に、自分の地域に手頃な住環境を欲するという肯定的な宣言」だという。より日本語的な表現をすれば、「地域エゴ」の反対がYIMBYだと言えるかもしれない。
その波は太平洋を越えてオーストラリアにも達している。昨年設立された第3の都市ブリスベンを中心に活動する「YIMBYクイーンズランド」の共同設立者、ナタリー・レイメントさんは、運動を貫く精神を次のように語っている。
「(拒否する対象が)私たちの町に新しく越してくる人たちや、古くからの住民が持つ特権を持たない人、あるいは移民だったらどうでしょう?それと同じ話です。あらゆる人々を歓迎する町であるためには、住む家にも幅広い選択肢を用意しなければなりません。住宅だけではなく、地元商店や児童福祉施設、幅広い職場も必要です」
|YIMBY運動が盛んな米カリフォリニア州でも・・
報道で伝えられる南青山のNIMBYたちの主張はこれとは正反対だ。彼らは、児童相談所に来る家庭環境などに問題を抱える子どもたちの存在によって、「南青山ブランド」という「特権」が損なわれる不安を口にする。その言葉の端々に、"高級なエリア"には"貧しい家庭"という異物はふさわしくないという排他的な意思が見え隠れする。
どんな場合でも、既得権を守ろうとするのは人間の本能だとは言えるだろう。「カリフォリニアYIMBY」は今年、住宅建設が禁止されている都心部の公共交通機関ターミナル周辺の住宅開発解禁法案の提出を支援した。
ロサンゼルス、サンフランシスコ、サンディエゴといった同州の大都市では中心市街地の住宅建設規制が厳しいため職住接近の物件が少ない。そのため強いられている郊外からの長時間通勤にうんざりしている一般市民の法案への期待は大きく、地元メディアの注目も高かった。しかし、第一関門の委員会聴聞会で反対され、あえなく廃案になった。政治の中枢では依然としてNIMBYが多数派だということが浮き彫りになった形だ。
これについて、「カリフォリニアYIMBY」のブライアン・ハンロン代表兼CEOは、地元メディアのインタビューに次のように答えている。「カリフォリニア州の住宅政策には、さまざまな利害が絡み合っています。全員をハッピーにすることはできないし、大きな改革には必ず反対する人がいます」。ハンロン氏は同時に、都市開発業者や政治家といった既得権益層の利害に町づくりが左右されてはならないとも力説している。「カリフォリニアYIMBY」は来年、より幅広い層の支持拡大を図り、再び同様の法案提出を支援すると共に、住宅建設の許認可手続きの簡略化を実現する運動なども展開する方針だ。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/12/post-11464.php
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