- なんでも
- セミ(抜け殻)
- 18/07/20 12:40:23
豪雨で犠牲になった広島市安芸区矢野東7の幼稚園児、土井愛翔(まなと)ちゃん(5)の夢は警察官。来春に小学校に入るのを楽しみにしていた。「ママ、寒いよ」。保育士の母佳織さん(29)は、避難の際に聞いた愛翔ちゃんの最期の言葉が耳から離れない。濁流にのまれた母子は引き裂かれ、夢も希望も絶たれた。
佳織さんは18日、親族とともに避難先から約1週間ぶりに地面がむき出しになった「梅河(うめごう)団地」の自宅跡に立った。あの豪雨まで、夫と愛翔ちゃん、次男(1)の4人で暮らしていた。最後に愛翔ちゃんと会話をした自宅2階は、約70メートル離れた場所まで押し流され、佳織さんと夫はその骨組みを見つめた。
降り続く雨。6日午後7時半ごろ、突然、自宅1階に土石流が襲いかかった。勢いが強く、身の回りの物を取る暇もないほど。佳織さんは愛翔ちゃん、次男とともに2階へ避難した。ぬれた愛翔ちゃんを寝室の布団でくるむと、「ママ、寒いよ」と怖がっていた。
濁流は容赦なく2階まで上がってきた。佳織さんは次男を抱いたまま屋外へと流されていく。そして次男は手から離れた。愛翔ちゃんはどこにいたのかさえ分からない。「このままでは子ども2人とも失ってしまう」
佳織さんは気づくと暗闇に倒れていた。目の前の崖を懸命にはい上がった。すると、近くで赤ん坊の泣き声がした。泥だらけの次男だった。でも、付近を見回しても愛翔ちゃんの姿はなく、9日に遺体が見つかった。白い肌着が茶色に染まり、流された時間の長さを感じた。
愛翔ちゃんは「色白で丸々として、かわいかった。幼稚園の制服がよく似合っていた」(地元住民)。来春に小学校入学を控えていた。佳織さんは黒色に青いラインの人気のランドセルを買おうと決めていた。愛翔ちゃんは学校生活を楽しみにし、佳織さんと同じくバレーボールをやりたいとも話していた。将来の夢はいつ聞いても警察官。白バイの模型を見ると、「乗りたい」とよく話していた。
葬儀で佳織さんは泣き崩れた。愛翔ちゃんに掛ける言葉が見つからない。それでも次男、夫と一緒に、また前を向かなければと思う。「残った家族は頑張って生きていかんと」。佳織さんは自分に言い聞かせた。
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