春夏冬
イスラム教の女性が頭に巻くヒジャーブを理由に「アルバイト不採用」は違法?
2017年11月05日 07時34分
イスラム教の女性が髪の毛を隠すため、頭に巻くスカーフ(アラビア語で「ヒジャーブ」、インドネシア語で「ジルバブ」)。イスラムの聖典でも定められているものだが、東京で暮らすイスラムの女性たちが、ヒジャーブを身につけているために、アルバイトとして雇ってもらえないという。
女性たちの窮状を訴えたのは、インドネシアの日本語通訳、ムハマド・スルヤさん。10日1日付の朝日新聞投書欄で、「物価の高い東京に大勢のイスラム教徒が暮らしている。生活費を稼ぐために、彼女たちはアルバイトを探すが、どこも雇ってくれない」「私の娘もアルバイト先を探したが、どこも雇ってもらえなかった。その理由はジルバブを被っているから」と投書した。
ヒジャーブを頭に巻いたイスラム教徒の女性の雇用をめぐっては、米国でも裁判が起きている。2008年に洋服ブランドの「アバクロンビー&フィッチ(アバクロ)」の営業職に応募した女性が、同じくイスラム教のヒジャーブを着用していたために、採用を拒否された。女性は差別に当たるとして訴訟を起こし、米連邦最高裁は2015年、女性の訴えを認める判決を下した。
厚労省によると、日本で働く外国人は108万3769人(2016年10月現在)となり、100万人を超えている。4年連続で過去最高を更新。多様な文化を背景に持つ外国人労働者は増えており、イスラム教徒の女性たちの問題は看過できない。ヒジャーブを理由に雇用を拒否することは、国内では差別にならないのだろうか。自身もムスリムである林純子弁護士に聞いた。
●ヒジャーブ着用は信教の自由で保護された基本的人権
宗教的な服装を理由に、雇用を拒否することは可能?
「採用の過程において考慮される要素は多いため、不採用となった場合にその理由が本当にヒジャーブなのかという判断は容易ではない、ということを最初に指摘しておきたいと思います。その上で、仮に不採用の理由がヒジャーブであることが明らかだという前提でお答えします。
米国では人種差別を禁止する法律(公民権法)があり、その中で宗教を理由に雇用を拒否することが明確に禁止されています。ご紹介いただいた事案でも、この法律に違反するという判断がされました。
しかし、日本には採用段階における差別を禁止する法律は存在しません。そのため、不法行為や公序良俗など私法の一般条項の解釈適用を通じて、平等権・信教の自由・職業選択の自由など憲法上の権利(基本的人権)を間接的に適用することになります(最大判昭和48年12月12日三菱樹脂事件判決)。
過去の判例を見ますと、雇用者に契約締結の自由(採用の自由)を認め、どのような者を雇用するかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由に決定することができるとする1973年の最高裁判例があります(同上)。しかし、雇用者の採用の自由も、応募者の基本的人権を侵してまで認められるわけではありません」
続く
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