- 下話
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>>984
続き
「あー!食ったー!飲んだー!笑ったー!
ゆりちゃんサイコー!」
カトリさんが、座った姿勢から後ろに倒れこむようにして寝転がった。
私も酔いが回って、隣に横になった。
「それにしてもさー、慎吾…いい子だよなぁ。
ゆりちゃんもさ、かわいいし、料理はうまいしさ。
こーんないい奥さんとかわいい慎吾、僕だったら絶対こんな家族大切にするのにな。」
大切に。
私がいちばん望んでいることだ。
大切にされたかった。
慎吾が一歳半の時、元夫の暴力から逃げるように離婚して、慎吾とふたりきりで頑張ってきた。
それから約3年。
誰からも労いの言葉をもらうこともなく、頼れる人もいなくて、ただ一日一日を精一杯生きてきた。
3年間、こらえていたものが、堰をきったように溢れてきた。
私は泣いていた。
嗚咽をあげて泣いていた。
「ゆりちゃん…ゆり?!ごめん。どうした?」
いけない。また気まずい思いをさせてしまう。
「だーいじょーぶだぁよー。気にするでねぇよー。」
志村けんのモノマネしながら必死に空気を変えようとしてみたけど、涙は止まらない。
「もー。歳とると涙もろくてねぇーあははー…ティッシュティッシュー。」
立ち上がろうとした私の腕をカトリさんが捕まえた。
「もういいよ。ゆり。見てらんないよ。」
怒ったような、悲しそうな表情。
言葉に詰まっていたら、掴まれた腕を思いっきり引っ張られて、いつのまにかカトリさんの胸の中におさまっていた。
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14/01/16 21:40:43