- なんでも
- ぬし
- PC
- 05/07/03 04:22:59
あの頃。私と彼がまだ一緒にいた頃。
私たちは何をしていたのだろう。
数えきれないほどのキスと、覚えきれないほどの想い出。果てしない喜びと快楽の中で私たちは、あてのない旅をしていたような気がする。
周りの友人も家族も何もかも関係なく、ただ二人がいればそれだけで世界は満たされた。
着の身着のままで、身体ひとつずつ共にあるだけの関係。
つながった指先が、いつだって私を安息の地へ導いてくれた。
彼の、ゆっくりと言葉を選んで話す姿が、とても特別に思えたことを覚えている。
摘み取った、たった一輪の花の香りを深呼吸して味わうような。
大事にしていた小鳥を、自分の手の届かない大空へ解き放つような。
そんな姿が印象的で、だから今も私はそれを忘れることができずにいる。
ありがとう
嬉しい
その口癖も、何ひとつ見逃さない目も、どんなことも忘れない特技も。
いまなら解かる気がする。
才能とは違う、あれは彼の意志だった。
私は彼を好きだから傍にいた。
彼は私を好きだから傍にいた?
そんな単純なものではなかったはずだ。
割りきれるような気持ちじゃなかったはずだ。
好かれていたと思う。
愛されていたと思う。
それは確実に、実感をもって言いきれる。
彼は愛してくれた。
いつだって心から言葉で、行動で表してくれた。
目に見えない確かな感情を伝えてくれた。
私の手に残ったものは、それがすべて。
形あるものは何もない。
彼がそう望んだから、私がそれを任された。
気持ちがあるから人は動くんだ
初めてキスした後に言ったこと、今なら解かる。
照れ隠しなんかじゃなかったんだ。
好きだからキスする。
好きじゃなかったらキスしない。
心が身体を動かしている。
笑うのは、楽しいから。話すのは、解かってほしいから。
だから彼は私に心を預けた。そう信じている。
そして私は、私だけに出来ることをしよう。
彼がいたことを、私の身をもって示しつづけよう。
誰より早く逝くことを、知っている彼だったからこそ出来たこと。
感謝すること。
気持ちを声に出して伝えること。
人を愛すること。
いまも彼の愛を、呼吸するように感じる。
ありがとう
私はいまも嬉しい
いまも、あなたを好きよ
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