- 趣味・遊び
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智くんです。
イメージと違ったらごめんなさい。
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「身体、大丈夫なの?」
「ロケ弁うめぇから大丈夫だって。」
「違う違う、そういう事じゃなくて。んー‥ソファで寝る癖どうにかなんないかな‥若い時はよかったけど、智くん30過ぎてるんだよ?せめて松本さんみたいにメンテナンスするとかさ‥あ、お邪魔します。」
手を顎に当てて、何やらぶつぶつと言いながら靴を脱いで揃える。
顔を合わせればいつもこれだ。
母ちゃんみたいな事を言う。
「はい。これだよね?」
「お~スゲー、これこれ。よく持ってたなあ?」
「昔買ったんだ。」
手渡されたのは、ずっと見てみたかった美術誌。
これ関係で知り合ってから、どのくらい経つだろう。
俺より年下だと知ったのはそれからずっと後で、その性格はむしろ俺よりもずっとしっかりしている。
パラパラとページをめくりながらソファに座った。
彼女はというと、部屋の隅に置かれたイーゼルや画材道具に目を爛々と輝かせている。けれど決して触れようとはしない。
「持ち主の手そのものでしょ。簡単には触れないよ」というのが彼女の弁だ。
「智くん、パレットまた新調したの?」
「うん、新しいの描くから」
「おーいいね。次はどんなの?」
「ん~‥でっかいやつ」
時々家に来てこうして話をする。関係を問われれば、所謂『友人』で。
「智くん。私、いってくる。」
「え?」
顔を上げると、満面の笑みを浮かべた彼女がソファの前に立っている。
「挑戦しに。」ピースをしてそう続けた彼女の頬は、すこし紅い。
「‥マジで?」
「うん。智くんが個展開いたのって今の私の歳でしょ?だから私も頑張ってみようって。」
応援の言葉をかけようとしたけど、うまい言葉が見つからない。
これまでも、会うのは時々だった。でも、簡単に会えなくなるかもしれないと考えたことがなかった。
年下の、友人。
顔を合わせれば母ちゃんみたいな小言をいってきて。
うるせーなあと思いながらも心地好い自分がいて。
こうして過ごす時間に、『自分』が取り戻される感じがして。
「あ~‥そっか。」
「ん?なに?」
「いや、好きなんだなあと思って。」
「そうだよ?絵が好きだから行くって決めたの。」
君がいなければ僕になれない――そんな唄を昔歌った。
あれは失った恋の唄だったけど。
不安や弱音を見せずひたすらに前を向く、この年下の友人のことが。
「違う、そうじゃなくて」
「?」
どうやらたまらなく好きらしい。
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12/04/10 16:34:39