嵐(妄想・小説)

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    • にのにの
      12/04/10 16:34:39

    智くんです。
    イメージと違ったらごめんなさい。
    -----

    「身体、大丈夫なの?」
    「ロケ弁うめぇから大丈夫だって。」
    「違う違う、そういう事じゃなくて。んー‥ソファで寝る癖どうにかなんないかな‥若い時はよかったけど、智くん30過ぎてるんだよ?せめて松本さんみたいにメンテナンスするとかさ‥あ、お邪魔します。」

    手を顎に当てて、何やらぶつぶつと言いながら靴を脱いで揃える。
    顔を合わせればいつもこれだ。
    母ちゃんみたいな事を言う。

    「はい。これだよね?」
    「お~スゲー、これこれ。よく持ってたなあ?」
    「昔買ったんだ。」

    手渡されたのは、ずっと見てみたかった美術誌。
    これ関係で知り合ってから、どのくらい経つだろう。
    俺より年下だと知ったのはそれからずっと後で、その性格はむしろ俺よりもずっとしっかりしている。
    パラパラとページをめくりながらソファに座った。
    彼女はというと、部屋の隅に置かれたイーゼルや画材道具に目を爛々と輝かせている。けれど決して触れようとはしない。
    「持ち主の手そのものでしょ。簡単には触れないよ」というのが彼女の弁だ。

    「智くん、パレットまた新調したの?」
    「うん、新しいの描くから」
    「おーいいね。次はどんなの?」
    「ん~‥でっかいやつ」

    時々家に来てこうして話をする。関係を問われれば、所謂『友人』で。

    「智くん。私、いってくる。」
    「え?」

    顔を上げると、満面の笑みを浮かべた彼女がソファの前に立っている。
    「挑戦しに。」ピースをしてそう続けた彼女の頬は、すこし紅い。

    「‥マジで?」
    「うん。智くんが個展開いたのって今の私の歳でしょ?だから私も頑張ってみようって。」

    応援の言葉をかけようとしたけど、うまい言葉が見つからない。
    これまでも、会うのは時々だった。でも、簡単に会えなくなるかもしれないと考えたことがなかった。

    年下の、友人。
    顔を合わせれば母ちゃんみたいな小言をいってきて。
    うるせーなあと思いながらも心地好い自分がいて。
    こうして過ごす時間に、『自分』が取り戻される感じがして。

    「あ~‥そっか。」
    「ん?なに?」
    「いや、好きなんだなあと思って。」
    「そうだよ?絵が好きだから行くって決めたの。」

    君がいなければ僕になれない――そんな唄を昔歌った。
    あれは失った恋の唄だったけど。

    不安や弱音を見せずひたすらに前を向く、この年下の友人のことが。

    「違う、そうじゃなくて」
    「?」

    どうやらたまらなく好きらしい。




    end

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