- なんでも
- 真田昌幸
- 21/01/27 03:08:20
プリンセスも徴兵されるオランダの「男女平等」にみる、ジェンダー平等と権利と義務
(略)
オランダで生活している筆者は、彼らのジェンダー平等に対する敏感さと、それと齟齬を起こしている古いルールやシステムの改変をいかにアグレッシブに進めているかに驚かされることが多い。
同時に、自分自身が女性であり、リベラルを自任し、日本では生きにくさまで感じていた筆者ですら、自分に都合のいいジェンダーバイアスを持っていることに気づくことが多く、愕然とする。
オランダでは専業主婦が少なく、幼稚園の送迎や平日のスーパーにパパも多く見られることなどで、この国で両親(やその他の協力者)が家事育児も家計も分担していることは移住してすぐに肌で理解した。
しかし第二子を産んだ1カ月後に保健師に「まだ仕事しないの?」と言われた時は面食らってしまった。そして外国人として幼い子どもを2人育てている筆者は、母親業という言い訳を盾に「皿にパンを乗せる(収入を得て家族を養うことのオランダ語の例え)」のはとりあえず今は夫の仕事、と無意識で自分を正当化していることに気づいた。
筆者自身は「家事育児も収入を得る仕事も夫と共有する」という方針だったから、いつかは職に復帰しようとは思っていた。でもその時は育児の忙しさを口実に、自分のキャリアや家計への責任を完全に棚上げしていたのだ。
これでは「今仕事が忙しい時期だから」と家事育児をしなくなる男性と役割は違えど変わらないのではないか。
他にもいくら大柄とはいえ、蝶番の調子が悪いからと当然のように重い鉄製の玄関ドアをガバっと外して修理している義母(オランダ人)に「お義父さんにやってもらわないんですか?力仕事でしょ?」と訊いて、「別に私もできるからやるわよ」とあっさり返された時も。
自分に「君のほうがうまいから」と家事を押しつけられるのは許さないくせに、無意識の中に同レベルの「男のほうが力が強いから、力仕事は夫に」という理屈があったことに気づいて心底反省した。
他にも戸別営業に来たプロバイダ会社の人に「インターネット関係は私ノータッチなので」と言って、意外そうな顔をされた時もあった。
他にもこの類の小さなジェンダーバイアスに気づいた機会は数えてみれば限りがない。女性であることで勝手にプレッシャーに感じていた不平等から解放され、その裏返しとして今まで他人事のように放ったらかしてあった責任を拾い上げていく過程は、ある面自分が無意識のうちに逃げで甘えていた態度を見直すきっかけになった。
オランダには私たちが欧米人男性全般にイメージするような「レディファースト」の習慣もない。おかげでオランダ人男性はある調査で「欧州で最もロマンチックでない男たちの国」に格付けされるなど、恋愛市場における人気は決して高くないが、彼らにしてみれば「女性をドアも開けられない非力な存在扱いするほうが失礼」という考え方なのだ。
もちろん彼らも70年代までは「ママは家で家事育児、パパは仕事」を普通と捉える傾向が強いベビーブーマー以前の世代が社会や家庭を作っていた。(略)
同国では今年(2020年)の7月から、それまで5日間だった父親(もしくは出産・養子縁組した同性パートナー)の「産休」に加え、さらに5週間の育休が取得できるようになった。これにより現行で6週間の出産当事者の産休と父親の取得できる育休が同等に近づく。
狙いはもちろん、家庭における役割平等の推進が第一義だが、それと同程度に労働市場における男女の市場価値の差を埋めることも重要視されている。(略)
2022年からは男女ともにさらに9週間育休を延長することも決定している。
権利と義務をフェアに共有するジェンダー平等への取り組みは、それぞれの国がそれぞれの立ち位置で試行錯誤している。内容に課題は山積なものの、日本でも最近父親の育休取得が見直されているようだし、子育て中の女性の就業率も7割を超えたという。
伝統的な「役割分担」に代わる「役割の共有」がどのように実現していくのか。自分の偏見や姿勢を反省しながら、期待して見守りたい。
文: ウルセム幸子
編集:岡徳之(Livit)
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