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- 上泉信綱
- 20/10/03 12:26:15
[安保60年]第2部 経済安全保障<1>技術狙う中国「千人計画」
読売新聞全国版
2020/05/04 09:48
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「中国政府の千人計画に応募しませんか」
人工知能(AI)を専門とする東工大教授だった男性のもとに中国の国家プロジェクトへの参加を呼びかける1通のメールが届いたのは6年ほど前だ。送り主は、かつて同大で共に研究に当たった北京理工大の中国人教授だった。
年度末に定年退職を控え、「まだ何かをやりたい」と思っていたこの男性は呼びかけに応じた。
(略)
中国が外国の研究者を厚遇で囲い込んでいるのは、外国の進んだ技術を自らのものにしようという狙いからだ。だが、純粋に科学的な理由だけではない。
「科学技術・経済・軍事において機先を制して有利な地位を占め、将来の戦争の主導権を奪取する」
中国は2016年7月に発表した軍民融合戦略に関する方針に、こう明記している。中国にとって、軍事と民間の境目はない。むしろ、民間技術を軍事的な優位性につなげようと血眼になっている。
男性の研究も、軍事転用が可能だ。
「応用すれば、無人機を使って攻撃したり、自爆したりすることができる」
男性はこう認める。そのうえで、「自身は軍事研究に関わらず、日本に迷惑をかけないようにと考えている」と釈明しつつ、中国側の狙いについて「中国の大学は、軍事技術を進化させる研究をして成果を出すのが当たり前だという意識が強い。外国の研究者を呼ぶのは、中国にはない技術の流出を期待しているからだろう」と語った。
米国では、千人計画を通じて機微な情報が奪われかねないとして、監視や規制を強めている。
◆千人計画=世界トップの科学技術強国を目指して海外から優秀な人材を集める中国の国家プロジェクト。2008年から実施され、海外で活躍する中国人研究者らを呼び戻すもののほか、外国人を対象にした通称「外専千人計画」がある。「外専」は11年から10年間で500~1000人の採用目標を掲げている。
◆軍民融合=最先端の民間技術の軍事転用を積極的に進める中国の国家戦略。2016年3月、中国共産党の第13次5か年計画(16~20年)に「軍民のより深い融合の推進」を明記した。17年1月には、習近平シージンピン国家主席自らをトップとする「中央軍民融合発展委員会」を設立し、中国軍の近代化を図っている。
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日本では、千人計画への参加に関する規制はない。共同研究や寄付に関する政府への報告義務もなく、技術管理も大学ごとの取り組みに依存している。
学術界では、国内科学者の代表機関・日本学術会議が1950年、「戦争を目的とする科学の研究には絶対に従わない」とする声明をまとめ、現在も防衛装備庁の研究助成制度への参加に反対するなど、安全保障分野での研究や開発をタブー視している。
ところが、中国の軍事技術の発展につながる可能性がある共同研究などについては、問題意識が乏しい。
経済安保に取り組む自民党のルール形成戦略議員連盟の甘利明会長は、「学術会議は軍事研究につながるものは一切させないとしながら、民間技術を軍事技術に転用していく政策を明確に打ち出している中国と一緒に研究するのは学問の自由だと主張し、政府は干渉するなと言っている。日本の技術が中国の軍事技術に使われようとしても防ぐ手立てがないのが現状だ」と語る。
日本の科学技術が日本の安全保障には生かされず、中国の軍事力近代化に貢献しかねない状況だとすれば、放置していいはずがない。手遅れになる前に、リスクを排除する対策が求められる。
http://liberty-and-science.org/media1/
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