• No.2 にゅうめん

    26/07/15 09:22:52

    ◆「それは学校側の都合ですよね」

     私は、言葉を一つ飲み込んだ。

    「もし触れずにいて、お嬢さんが階段から落ちていたら、大きな怪我につながった可能性があります」

    「そんなの、触らずに済む方法があったはずです」

    「たとえば、どういう方法でしょうか」

    「女性の先生を呼ぶとか」

    「授業中の緊急事態でした。お嬢さんご本人が、今すぐ保健室に行きたいと訴えておられたのです」

    「だからって、怒鳴る必要はありませんよね」

    「怒鳴ったわけではなく、転倒しそうになった場面で、とっさに声が大きくなったのだと思います」

    「娘は『怒鳴られた』と感じたんです」

     この瞬間、私はこの面談の難しさを理解した。

     この件の争点は、行為が適切だったかどうかではない。

     相手の中ではすでに、「娘がそう感じた」という一点が絶対的な事実になっている。

    「娘は、体調が悪くて不安だったんです。そのときに男の先生に肩をつかまれて、大きな声で『しっかりしろ』なんて言われた。どれだけ怖かったと思っているんですか」

    「お嬢さんが不安な思いをされたことは重く受け止めています。ただ一方で、現場は階段の途中でした。教員としては、まず転倒を防ぐことが最優先になります」

    「それは学校側の都合ですよね」

     私は一瞬、返答に詰まった。

     安全確保が「学校側の都合」になるのか。だが、その理屈を正面から否定すれば、さらに感情は硬化するだけだろう。

    「この子が苦痛を感じたときに、その気持ちを代弁してやれるのは、親しかいないんです」

     母親はそう言った。私はその言葉の強さを感じた。

     たしかに親は、子どもの最も近くにいる存在だ。

     だが、その“代弁”が、事実の検証や相手の事情の理解を一切許さなくなったとき、対話は成立しなくなる。

     面談はそこで終わらなかった。

     私は何度も説明した。

    (以下略)
    https://bunshun.jp/articles/-/89963

    【つづきを読む】「触っても、触らなくても責められる」精神疾患で休職する教員が“過去最多”に達した日本の学校が抱える“キビシイ現状”とは
    https://bunshun.jp/articles/-/89964

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