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- 22/06/07 16:14:08
自分でも違和感があるのに、会話でもメールでも多用してしまう「させていただく」。賛否両論あるこの言葉遣いだが、なぜこれほど使われているのか。「させていただく」増加の背景について、『「させていただく」の使い方 日本語と敬語のゆくえ』(角川新書)の著者であり、法政大学文学部教授の椎名美智氏に聞いた。(清談社 沼澤典史)
● サウナで「整わせていただいた」が おもしろい理由
「結婚させていただきました」「謝罪させていただきます」など、今や「させていただきます」を聞かない日はない。メールのやりとりでも「させていただく」を使用する人は多いが、使っている本人でさえ「させていただく」になんとなく違和感を抱いていることもある。文化庁が発表している『敬語の指針』でも、誤用が多い表現として紹介されているほど「させていただく」の使い方はややこしい。
正しい使い方なのか分からない、便利だが不思議な「させていただく」について、言語学の一分野である語用論の立場から研究しているのが椎名氏だ。椎名氏は「させていただく」の本来の使用法についてこう語る。
「『させていただく』は『させて』で許可をもらい、『いただく』で恩恵を受けることを示す敬語です。『ご説明させていただく』といった具合に、本来であれば、許可や恩恵を受ける相手が必要な言葉ですが、現在は許可を得る他者がいなくても使われるようになっています。私が気に入っている例としては、タレントのおのののかさんがサウナの感想として発した『しっかり整わせていただいた』というフレーズです。整う(くつろぐ)ことは本来人から許可をもらう行為ではありません。にもかかわらず、『させていただいた』を使っているのがおもしろいですよね。自分の丁寧さを示す、新しくてかわいい使い方です」
椎名氏の調査によると、このように許可をもらう他者が不在な「させていただく」に、違和感を覚える人が多いのだという。
「とある講演会の受付で『受講票を確認させていただきます』と言われた年配の男性が強い違和感を訴えたことがあります。男性の考えでは『私には許可を与える権威がないのに、そんな言い方をするのはおかしい、失礼だ』ということでした。私が行った調査によると、『させていただく』の正しい用法にさえ、30~50代の中年層は、全年齢層で最も高い違和感を示していました。この層は現役世代なので、言葉遣いに敏感なのだと思われます。逆に、20代の人たちは、生まれた頃から『させていただく』が使われておりいわば『させていただく』のネーティブなので、違和感は全体的に低めで、斬新な使い方をします」
日々学生と接する椎名氏は、「特に若い世代は相手を傷つけないよう距離を取る傾向が強い」という。このような傾向も若い世代が「させていただく」に違和感を覚えにくい理由だそう。
「ある学生が別の学生に対して『まさか鉛筆もう1本持ってたりなんかしないよね?』と言ったんです。これは仮定・否定・疑問文で気遣いながら、『鉛筆貸して』という意図を伝えているということ。ただ、この学生だけが特殊ではなく、同じようなケースは何度も目撃しました。私は大学に30年以上いますが、現在の若者は相手に対して丁寧過ぎるほど丁寧。言い換えれば、相手も自分も傷つかないようにバリアを張って話している。おそらく『させていただく』も、そうしたバリアの一種で、自分の丁寧さを演出できる敬意マーカー、適度な心理的距離感も保てる便利なフレーズになっているのだと思います」
https://news.yahoo.co.jp/articles/e5f3bf24a4f077635ad1fe0559ad95d2c69c9d39?page=3
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