【給付金4630万円 誤振込み事件】電子計算機使用詐欺罪の適用は疑問だ

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  • 匿名
  • 22/05/19 05:31:41

(一部、省略)

■阿武町の事件で電子計算機使用詐欺罪が適用された背景

 過去の裁判例から見るかぎり、「虚偽の情報」とは、入金等の処理の原因となる経済的な実体を伴わないか、それに符合しない情報のことを意味しています。阿武町の事件では、誤振込みが問題になっていますので、4千数百万円の入金情報が「虚偽の情報」なのかが問題です。

 以前ならば、誤振込みの場合、受取人には有効な預金債権(預金を引き出す権利)は成立しないので、正当な払い戻し請求権はなく、これを窓口で引き出すと詐欺になり、ATMから引き出すと窃盗罪、ネットバンキングで移動させれば電子計算機使用詐欺罪になると単純に考えられていました。

 ところが最高裁平成8年4月26日の民事判決が、誤振込みの場合であっても受取人には有効な預金債権が成立していると判断して、刑法の考え方に大きな混乱が生じました。

 つまり、毎日おびただしい数の、しかも膨大な金額の振込みが多数の(場合によっては国を超えた)銀行間で行なわれていて、振込みという仕組みは社会に不可欠の資金移動の手段である。だから、それが正しいかどうかを事前にチェックすることは不可能であり、実体のない誤って振り込まれたものであっても、それはそれとしていったんは正当なものとして扱い、後は当事者間ごとに「組戻し」(銀行間でのリセット)や「不当利得返還請求」などの事後的な救済手段を使って是正するしかないとしたのです。

 しかし、誤振込みの受取人は、いわばタナボタの利益を受けるわけですから、引出し行為が民法上は正当な権利であっても、刑法上はその権利行使が違法とされることがあるのではないかという意見が出てきて、論争になったのでした。

 すでに別稿(下記)で説明しましたので詳細は割愛しますが、平成15年に最高裁は誤振込みの事実を知りながら預金を窓口で引き出した行為について、預金債権は有効だとしながらも詐欺罪の成立を認めました(最高裁平成15年3月12日決定)。その理由は、銀行は誤振込みを正す組戻しを行なうことができたのに、受取人がその事実を告げずに預金を引き出す行為は、銀行の利益を損なうものであり、銀行との関係で詐欺行為にあたるというものでした。

 学説は分かれているものの、裁判実務の考え方としては、犯罪の成否は民法とは別に考えるのだという立場です。本件で警察が受取人に対して電子計算機使用詐欺罪の容疑を認めたのも、このような実務の背景があります。

(中略)

■まとめ

 本件に電子計算機使用詐欺罪が成立するかどうかは、私は否定的に考えざるをえません。

 確かに、容疑者の行なった行為は、とんでもない行為で、なんと愚かなことをやったものかと思います。道義的には大いに非難されるべき行為です。しかし、それが犯罪となるかは別の問題であって、刑法で書かれている要件が満たされているかを慎重に検討する必要があります。そして、彼の行為は「虚偽の情報」を入力したのかという点において疑問が払拭できません。

 なお、ATMから引き出した場合は窃盗罪になるという見解もありますが、引出し行為そのものが民法上認められているので、それを窃取行為だと見ることも問題だと思います。その場合、行為者は(正当な)預金債権にもとづいて引き出しているわけで、民法上はその金銭について所有権を取得することになります。したがって、窃盗罪に必要な「不法領得の意思」(他人の物を不法に自分のものとする意思)も認められないのではないかと思います。

ソース https://news.yahoo.co.jp/byline/sonodahisashi/20220519-00296676

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