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- 20/10/29 20:03:43
知的障害がある長女が自宅で三男(3)の腹を踏みつけて死なせてしまった事件。大阪地裁は9月、金城ゆり被告(24)に懲役3年、執行猶予5年の判決を言い渡した。8人家族のうち父親を除く成人3人に知的障害があり、カオス状態だった家の中で日常的に育児や家事が長女に押しつけられていた。(共同通信=真下周、斉藤彩)
▽「子供を産むだけ」募る不満
ゆり被告は1995年に生まれた。父親(46)は、得意先の会社の社員だった母親(43)と知り合い結婚した。当初は妻の障害を知らなかった。翌年には長男(23)が続けて生まれた。裁判資料によると、ゆり被告が5歳のころ、父親の暴力をきっかけに両親が別居。母親の育児能力の問題もあって、ゆり被告と長男は児童養護施設に数年間、保護されたようだ。ゆり被告は施設に預けられた日に「触るな」「きしょいんじゃ」「しばくぞ」の3語以外の言葉を発しなかったらしい。職員は「家庭内で言われた言葉をしゃべっている」との感想を抱いた。職員らとの関わりの中で少しずつ言葉遣いを覚え、甘えるようなしぐさも増えていったという。
両親は後に復縁。2人の子供も家庭に戻った。ゆり被告は中学校に進み、普通学級と特別支援学級の両方に籍を置いた。高校には進学しなかった。一家の生計を支えたのは、トラック運転手だった父親の給与と3人の障害年金だった。マンション住まいから近くの土地を購入し、3階建ての一軒家を新築し移り住む。2015年のことだ。
そのころ次女、雷斗ちゃんと双子の次男、四男の4人が、3~4年の間に立て続けに生まれた。ゆり被告は、双子の誕生を境に育児や家事を担うようになり、「おかんは産むだけ。全部ゆりに任せる」と不満を募らせていった。
「めしつかいやロボットあつかいみたいに、次々にさしずしてくる」「おかんはゆりに休む時間をいつもくれなかった」。ゆり被告の逮捕の約1年後、雷斗ちゃんに宛てて書いた手紙が公判で読み上げられた。B5サイズの便箋にぎっしり27枚。文章は平易かつ丁寧な字でつづられていた。苦しい生活は限界だったことが伝わる。
雷斗ちゃんへの謝罪に続き、一軒家に引っ越した当時を振り返る。「最初のころは、みんな自由に色んな部屋を見にいったりして、はしゃいでいたね。『ここでご飯食べるんやで』とか言ったり。クローゼットもいっぱいあるってよろこんだり」。赤ん坊だった雷斗ちゃんは「あまりにも(双子の)顔そっくりで、手の動かしかたも一緒でめっちゃかわいかった。おかんでも(どっちが兄で弟か)区別つかなかったのに自分だけ区別できてうれしかった」と記した。
だがすぐに暗転する。「ゆりにとっては(新居での生活は)つらくてしんどくてイヤな思い出なの。一軒家にひっこししてからこんな苦しい思いをするなんて全く思っていなかった」。ゆり被告の部屋にはエアコンが付いていなかった。夏場は地獄で、夜は眠れない。朝起きて夜寝るまで、ほとんどの家事や育児を彼女がしていた。
着替えさせ、ミルクを温め、だっこしてあやし、オムツを替えた。その合間に洗濯や炊事。母親は「ふろためて、こいつら入れて」とか「こいつら調子乗ってるで。言うこと聞かんからしばいたれ」とか指示するだけ。ゆり被告によれば、母親は横になってテレビを見ながらスマホをいじったり、何かを食べたりしていた。
続く
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榊原康政