とけい
第三者から精子提供減少 新規の不妊治療受け入れ停止 慶大病院
匿名で提供された第三者の精子を使った不妊治療について、国内の実施件数のおよそ半数を行ってきた
慶応大学病院は、必要な精子の量を確保できなくなったため、先月から新規患者の受け入れを停止したことが
わかりました。病院では、生まれた子どもが精子の提供者に関する情報の開示を求めるなど、「出自を知る権利」が
広く認識されるようになり、精子を提供する男性の側にためらいが出ていると見ています。
第三者から匿名で提供された精子を使って人工授精する不妊治療は、病気で精子がないなどの理由で不妊と
なっている夫婦を対象に行われていて、慶応大学病院は、この治療を国内の実施件数のおよそ半数に当たる
年間1500件程度行ってきました。
病院では1年間に10人以上の男性から精子の提供を受けてこの不妊治療を実施してきましたが、去年から精子を
提供する人が少なくなり、ことしは先月の時点で1人もいないということです。
このため、病院では先月、この方法による不妊治療の新たな患者の受け入れを停止しました。
そして、この状況が続けば、1年後にこの治療そのものを続けられなくなるおそれがあるとして、来月にも有識者を
交えた会議を開き、どのように継続するか対策を検討することにしています。
精子の提供をめぐっては、生まれた子どもが匿名の精子の提供者に関する情報の開示を求めるなど、
「出自を知る権利」が広く認識されるようになり、匿名を希望する提供者側にためらいが広がっていることがあると
病院では見ています。
国内では「出自を知る権利」は法律などで整備されておらず、慶応大学病院産婦人科の田中守教授は
「一つの病院で対応するには限界があり、法律や制度を国が中心となって整備し、治療が続けられるようにしてほしい」
と話しています。
「出自を知る権利」をめぐる状況
「出自を知る権利」として精子提供で生まれた事実や精子の提供者に関する情報を知ることはこの治療で生まれた人の
大切な権利だと、近年、広く認識されるようになってきています。
海外では、スウェーデンやオーストリアなどでは「出自を知る権利」を認める法律が整備されています。
日本では、厚生労働省の部会で、制度を整備すれば15歳以上の子どもが精子提供者の氏名や住所などの情報の開示を
請求できるとした報告書をまとめているほか、この治療で生まれた人たちで作る団体が、「出自を知る権利」を保障すべきだと
活動するなど、広く認識されるようになってきていますが、法律や制度の整備は行われていません。
一方、精子提供をめぐっては、医療機関を介さず、インターネットなどを通じて個人的に精子の受け渡しを行う
ケースがあり、感染症の予防策が十分でないなど、医学的なリスクがあると指摘されています。
慶応大学病院の田中守教授は、このまま治療が続けられない場合、リスクのある精子のやり取りが行われるおそれが
あると指摘しています。そして治療を継続するためにも、新たに「出自を知る権利」を尊重した公的な精子提供者の
登録システムを検討すべきでないかとしています。
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