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【法廷から】「ママ、苦しい」と虐待で息を引き取った3歳児 居候男を「パパ」と呼んでいた それなのに複数女性と…
小さな命が消えゆく様子に、何も思わなかったのだろうか。同居相手の当時3歳の息子に暴行を加え、死亡させたとして、傷害致死罪に問われた男の裁判員裁判が9月4~13日、東京地裁で開かれ、懲役8年の判決が言い渡された。逮捕直後からその衝撃的な暴行内容が指摘されていたが、法廷では新たに犯行前後の自己中心的な行動が明らかになった。(社会部 加藤園子)
第4の女?へのメッセージ
「覚えてないです」
それまで淡々と質問に答えていた永富直也被告(21)が、言葉を濁した。
「(暴行翌日の)夜、同居相手とは別の女性とLINE(ライン)していませんでしたか」
検察官がその女性のLINEのアカウント名を読み上げる。暴行翌日はまさに被害者の新井礼人(あやと)ちゃんの容体が悪化し、目の前でぐったりと動かなくなってしまった日だ。
「この人とお互い『好きだ』とかそういうやりとりをしていませんか」
「覚えていない」と繰り返した永富被告だが、証拠などから自分のLINEアカウントから送信したメッセージであることを認めた。
「この人は誰なんですか」
「友達です」
「どういう関係?」
「…そこまでは言いたくないです」
すでに検察官からの質問で、同居相手だった女性とは別に2人の交際女性がいたことを明かした永富被告。LINEの人物はその交際相手とも違う女性だと答えた。
「警察が来てから、『自分は捕まる。出てくるまで待っててね』と女性に送っている。本当に礼人ちゃんが心配だったのか」
検察官が質問を突きつける。同居相手だった女性が救急車を呼ぶと「ここにいられない」と部屋から逃げたことも指摘され、論告では「被害者に思いをはせる様子がなく、生命軽視の程度は甚だしい」と断じた。
イライラの権利
判決によると、永富被告は平成28年1月25日、東京都大田区のマンションで、礼人ちゃんの頭をかかとで蹴り、両方のこめかみを片手で強くつかむなどの暴行を加えて硬膜下血腫などの傷害を負わせ、27日未明に死亡させた。
法廷で弁護側は、食事の際の行儀についてしつけをしていたが、礼人ちゃんができないので腹が立って暴行したなどと主張したが、判決は、「女性宅に一時的に居候していたにすぎず、そもそも被害者にしつけをしなければならない立場になかった」と指摘した。
永富被告は事件当時、保護観察処分を受けていたが、家出した上、保護司との連絡を絶ってSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で知り合った女性宅に転がり込んだのだった。
礼人ちゃんの父親になる気はなく、複数の女性との関係があった、と話した永富被告。法廷では暴行の背景について「同居相手が掃除をしないこととご飯を作らないことにイライラしていた」とも語り、「あなたがイライラする立場にあるのか」という検察官の質問には「あると思います」と返した。
「シングルマザーなので…」
法廷には同居していた女性も出廷した。礼人ちゃんをボーリング球のように投げてショーケースにぶつけ、蹴り、包丁を持ち出して脅す様子などを生々しく語った。
女性が証言した暴行内容を一部否認した永富被告だが、女性の証言と一致したのは、礼人ちゃんが居候からわずか1カ月足らずだった永富被告を、暴行を受けても「パパ、パパ」と呼んでいたことだ。人懐こく表情豊かだったという礼人ちゃん。暴行を受けた後は、憔悴(しょうすい)した母親の隣で「ママ、苦しい」とつぶやき、その後息を引き取ったという。
「私がシングルマザーなので、たくさんの人に支えられて育っていくと思う。礼儀を忘れない子になってほしいと思い、『礼人』と名付けた。礼人は私の支えで宝物だった」
事件がなければ今年10月で5歳。「東京拘置所で毎日手を合わせている」と述べた永富容疑者の思いは天国に届くのだろうか。
懲役9年の求刑に対して懲役8年を言い渡した判決は、「わずか3歳にしてこのような形で生涯を閉じることとなった被害者に同情の念を禁じ得ない」と言及した。- 2
17/09/21 15:34:48